その8:2008年11月 オーストラリア NICNAS/OCS 報告書案 | 化学物質過敏症 runのブログ

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3.1.4 酸化窒素、パーオキシナイトライト、NMDA 受容体の高活性化

仮説:パル(Pall (2002; 2003))は、MCS被害者らが経験すると言われている過敏症状(hypersensitivity)は、酸化窒素、oxidative product パーオキシナイトライトのストレス関連増加、及び中枢神経系(CNS)の 大脳辺縁系にあるN-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体の増加に関わる相互に関連した相乗的に作用する生物化学的メカニズムによって説明することができる。

 この理論は、過敏症状は、酸化窒素及びパーオキシナイトライトのレベルを高めつつNMDA受容体を刺激するウイルス性又は細菌性感染、化学的暴露又は心理的ストレスのような短期的ストレス因子が関与する大脳辺縁系燃え上がり/神経過敏化プロセスを通じて過敏症状が生じるということを示唆している。

 これは、次のような相互に関連する作用のサイクルを伴う。
a) NMDA 受容体の活性を高める、逆行性シグナル伝達物質(retrograde messenger)及び刺激神経伝達物質(グルタミン酸塩)の放出としての酸化窒素作用
b) 環境化学物質の分解を低減する酸化窒素抑制シトクロム P450
c) NMDA受容体の感受性を高めるパーオキシナイトライトを形成する超酸化物との酸化窒素作用
d) 化学物質の中枢神経系へのアクセスを増大するパーオキシナイトライト介在血液脳浸透性の増加

 MCSの慢性特性は、これらのメカニズムの継続する伝播により起きるという前提に立っている。

この理論のもっと最近の展開はまた、バニロイド受容体の活性増加をほのめかしている(Pall, 2004; 2007)。

MCS の症状の相違はこれらの反応の組織分布の変動によって説明される。

MCSのこの作用様態をさらに進めて、著者らは、MCSは酸化窒素パーオキシナイトライト生物化学を下方制御する因子によって最もよく治療されることを示唆している。

研究課題:この理論はまだ論破されていないが、それを支える科学的証拠がはじめからない。

例えば、この理論の中で酸化窒素、パーオキシナイトライト及びNMDA 受容体に中心的役割があったとしても、酸化窒素 scavenger、合成抑制物質、又は NMDA 拮抗物質のような、この生物化学をかく乱する因子の影響はMCSにおいては調査されていない。

 さらに、この理論は、発症因子として疎水性有機溶剤及び有機リン又はカルバメート系農薬を示唆するが、MCS症状の発症因子は多様であり、しばしばアルコール(すなわち香水)又はマラチオンなどの農薬のような親水性有機溶剤を含む。

実際に、ある研究者らはアルコールは実際には刺激するよりむしろ NMDA 受容体を抑制することを示している(Peoples & Ren, 2002)。

さらに、この仮説が多臓器症状を説明するために大脳辺縁系燃え上がり/神経過敏化理論を利用するなら、この仮説は、すでに示した通り、脳辺縁系燃え上がり/神経過敏化モデルと同じ批判を引き出すであろう。


3.1.5 毒物誘因耐性喪失(TILT)

仮説:ミラー(Miller (1997))は、MCS病因を説明するために、もうひとつの疾病理論、TILTを提案した。

この理論は、急性又は慢性の化学的暴露は脆弱な人に以前は耐性のあった化学物質、薬剤、食品に対する耐性を失わせることがあり得るということを示唆している。

一度過敏化すると、多くの物質への低レベル暴露が症状の引き金となるかもしれない。

ミラーは、TILT が、細菌、免疫、及びがんの理論と同様な疾病原因の新たな理論であること証明するかもしれないと主張している。

 最初の耐性喪失、又は他の関連性のない化学物質への過敏性の明白な広がりを説明するメカニズムは何も提案されていない。

MCSに関連する多様な症状は、まだその人に影響を与えている他の暴露に対する反応によりマスクされている特定の有毒物質に対する具体的反応をもつマスキングの概念を用いて説明される(Miller 1996, 1997; 2000; Miller et al. 1997; 1999a, b)。

この理論によれば、過敏性の診断は、患者の”マスクを取り去り”、トリガー物質のバックグラウンドの影響を除去するために、環境医療ユニットを用いて実験条件を最適化することに依存する。

研究課題:ミラーらによれば、研究は一般的に暴露テスト前に患者のマスクを取りさることに失敗している。


3.1.6 条件反応

仮説:ある研究者らは、MCSにおける化学的臭気に対する条件反応を提案している。

その仮説では、強い臭気を発する化学的刺激は直接的で無条件に身体的又は精神生理学的な反応を引き起こす(Bolla-Wilson et al. 1988; Shusterman et al. 1988; Siegel 1999)。

同じ刺激物に対するその後のもっと低い濃度での暴露は、同じ症状の条件反応を引き出す。

条件付け関連の現象に関する報告されている事例には、薬理学的過敏、条件付けされた免疫変調、及び臭気/味覚嫌悪がある(Siegel and Kreutzer, 1997; Giardino and Lehrer, 2000)。

 有害な条件刺激は生理学的であるとともに心理学的であるかも知れない。ペンネンバカー(Pennebaker (1994))は、MCS対象者はしばしば、症状を報告する以前にトラウマ経験のあった人々である。

戦地への配置はMCSの有病率の増加及び多症状疾患に関連している(homas et al., 2006; Osterberg et al., 2007; also see Section 2.3)。

 健常者の条件反応の実験で、バンデンバーグら( Van den Bergh et al (1999))は、無害であるが臭いのする化学物質に対して対象者らは、もしこれらの臭気が関係のない症状を誘因する生理学的暴露なら、身体的症状及び呼吸変化反応を獲得し、その後その反応を失うことができることを示した(CO2過多の空気への暴露による過度呼吸)。

条件反応は派手ではないが再現性があり、少なくとも反応条件の一部としてMCSの見解を支持する。その後、刺激の一般化を通じて、他の臭気要因がその条件反応又は暴露の認識さえも引き出し始めるかも知れない(Bolla-Wilson et al., 1988; Devriese et al, 2000; Lehrer, 2000)。

研究課題:しかし、条件反応はMCS被害者によって報告される多様な範囲の症状を直接的に説明しない。さらに、多くの場合、無条件刺激を構成するはずの実質的な初期暴露事象がない(Sparks, 2000b)。

(続く)


runより:今日はここまでです、次回は6章からになります。

一気に掲載しても良かったのですがこの記事はじっくり読んで頂きたいと思います。

今日は眼の調子がちょっと良くないのでこれから私も復習です(^▽^;)