2.6 MCS には疾病分類があるか?
MCSは世界中のどこの国においても分類された疾病として認められていない。
ドイツでは、MCSはドイツ医学文書情報研究所(DIMDI)によって刊行されたドイツ語版『疾病及び関連健康問題の国際統計分類(ICD-10-SGB-V)』のアルファベット順インデックスに含まれている。
しかし、このインデックスが何人かのドイツ臨床医によって用いられた句(phrase)又は診断の収集であり、ドイツにより”公式に認められた”リストではない((M. Schopen, DIMDI, Personal Communication, 2004)。
オーストラリアでは、オーストラリア版の2003年国際統計分類(ICD-10-AM [Australian modification])にMCSを含めるためにMCSは公募の対象であった。
疾病分類は病気の実体を確立された基準に従って割り当てる分類システムである。
健康分類は健康介護サービスに記述されている通り、疾病、傷害、及び干渉のためのコードの階層的システムからなる。現在、オーストラリアでは、診断と手続きはCD-10-AMを用いて一連の数値及び/又はアルファベット・コードで割り当てられている。
これは、収集された疾病データの比較、分析、及び解釈を可能とする。
公募は国立健康分類センター(NCCH)によってレビューされ、その後、NCCH 専門家諮問グループを通じて関連臨床専門家により調査され議論された。
MCSの場合には、免疫学臨床分類コーディング・グループ、王立オーストラリア医学校、ガセミックス臨床委員会オーストラリア、及びオーストラリア臨床免疫アレルギー学会が全て助言を求められた。
2003年のこの提案の検討に関与した専門家らは、重要な臨床問題を示す一連の症状があることについて同意したが、ICD-10-AMの中にMCSのための専用のコードを設ける提案は下記の根拠により拒絶された(J Rust, NCCH, Personal Communication, 2004)。
過去20年間以上にわたり多くの試みがなされてきたにもかかわらず、この記述的ラベルを獲得した患者における根底にある病理学的プロセスの臨床的又は研究室での証拠は存在しない。
一般集団において匂い及び煙霧からの不耐性/刺激に広い範囲があり、提案された分類のカテゴリーに入る患者の範囲を定めるための明確な境界線を引くことは不可能である。
世界的に受け入れられている診断基準も有効性が検証された診断テストも存在しない。
MCSのカテゴリーのために提案された臨床的特徴が CFS や FM のように重複しているように見える多くの症候群がある。これらの実体とMCS症候群との間の関係は現状では不明確であり、このことが診断分類の困難さを作り出している。
臨床実体としてのMCSの認知の欠如及び、その結果としての保健制度の中での分類の欠如が疾病データの収集と分析を著しく制限している。
2.7 MCSの人々は共通の化学物質暴露を受けているか?
現在、MCS対象者又はMCSになりやすいかもしれない人々と、特定の化学物質暴露又はライフスタイルとを結びつける疫学的データは存在しない。発表されれいる文献では、MCS対象者は一般的に女性、30~50歳台、平均的社会階層より上位であると記述されている(Black et al. 1990; Asford & Miller, 1991; Cullen et al. 1992; Sparks et al. 1994; Lax and Henneberger, 1995; Miller & Mitzel, 1995; Fielder & Kipen, 1997; Levy, 1997)。
アッシュフォードとミラー(Ashford and Miller (1998))は、アメリカにおける次のグループの人々は化学物質への低レベル暴露への感受性が高いと主張した。
日々の活動の一部として化学物質に職業的に暴露している産業労働者
密閉性のビルで働いている事務所作業者
汚染地域(汚染現場又は既知の汚染源の近く)にいる個人
化学物質に思いがけなく暴露する個人
また もっと最近のカナダの調査はMCS対象者の中における女性バイアスを報告しており、またMCSは(他の医学的に説明できない身体的症状とともに)低所得層に多いことを報告している(Park and Knudson 2007)。
職業的化学物質暴露の役割とMCSに関して、アメリカの報告書はMCS対象者の役27%だけが、建設業や製造業のような産業で化学物質に職業的に暴露していると報告した(Cullen et al. 1992)。
ラックスとヘネバ-ガー(Lax and Henneberger (1995))は、1989~1991年に労働衛生診療で605人の新たな患者の中にカレン(Cullen (1987))によって提案されたものと類似の症例定義に合致する35人を特定した。この調査の中で、産業で働いていた非MCS患者の54%は、他の労働環境よりも潜在的に危険な化学物質暴露を受ける可能性があった。それとは対照的に、MCS患者の26%だけが危険な産業に雇用されていた。
オーストラリアにおいて職業的に病気になりやすいということが存在するかどうかを決定するために入手できる情報がほとんどない。
2005年南オーストラリア議会でのMSC審議会は、看護師らから、彼らのMCSのきっかけとなった化学物質としてクリーニング剤、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドなどを特定したいくつかの提出書類を受け取った。
グルタルアルデヒド影響支援者-被害看護師グループ(GASPing)は、看護師にとって特に懸念ある化学物質としてグルタルアルデヒドを特定した。
同様に、パイロットと客出乗務員は潤滑油と油圧液がMCSの原因であると特定した。
一般的に、審議会では、ウェイジラップのアルコアにおける看護師、航空産業、農民、機械工、アルミニウム工など異なる職業グループにおける広範な人々がMCSの症状を供述した(Social Development Committee, 2005)。
この議会審議への提出書は、疫学的データの裏づけのある調査が欠如しているが、オーストラリアにおける職業的暴露と化学物質及びMCSとの間の強い関係を示唆した。
全体として、化学物質暴露のタイプ及び程度に基づくMCS発症のリスクにさらされている個人を特定するためには、現状で入手可能なデータでは不適切である。
2007年に開発された新たなオーストラリア全国職業病システムが言及される。
オーストラリア安全補償協議会(ASCC)はオーストラリア有害性評価データベース(AHEAD)を開発したが、それは労働者の自己申告暴露と実際の暴露の測定の調査から得られたデータを含んでいる。
このデータベースはまた、化学物質暴露をカバーするであろう。
初期調査データからの最も重要な発見はASCCによって2008年中旬までに発表されることが期待される。