その10:第8部:化学物質過敏症に関する情報収集、解析調査報告書 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

10 東京地判平成19 年9 月12 日(未公表)(杉並区不燃ゴミ中継施設健康被害事件)
[事実の概要]
この事件は、平成8 年(1996 年)4 月に稼動を開始した不燃ごみ積替え施設である杉並中継所(本件中継所)の近隣に居住していた者が、本件中継所から排出された化学物質により化学物質過敏症に罹患するなどし、損害を被ったと主張して、東京都(Y)に対し、国家賠償法2 条に基づき1 億円余の損害の賠償を請求した事件である。
判決は、次のように述べて128 万円の賠償を都に命じる判決を出した。
なお、本件におけるXを含む本件中継所の周辺住民18 名は、平成9 年(1997 年)5 月、Yを被申請人として、公害等調整委員会に対し、申請人らの健康不調と本件中継所の操業との間の因果関係を認める旨の原因裁定手続の申請をおこない、公害等調整委員会は、平成14 年(2002 年)6 月26 日、Xを含む14 名の申請人らの平成8 年4 月から同年8 月ころに発生した健康不調が、本件中継所の操業に伴って排出された化学物質によるものであることを認める裁定をした(これについては後述)。

[判旨]
① 本判決は、次のように述べて、Xの健康不調が発現した当時、Yによる本件中継所の設置・管理に国家賠償法2 条の瑕疵があったとした。それによれば、「本件中継所は、ホッパーやコンパクターの洗浄及びホッパーへの散水によってこれらに付着した厨芥からの有機分が床排水に混入することが予想できたところ、平成8 年の稼働当時は、床排水の1 日流入量に比べ、床排水槽の制御容量が極めて大きく、床排水が長時間にわたって排水層に対流する構造になっていたことから、汚水中の有機分の腐敗が進むことにより硫化水素等の嫌気性ガスが発生し易い状況にあったのに、Xの健康不調が発現した当時、排水処設備を備えていなかったために、本件中継所からは、下水排水基準を超える有害物質を含む排水が未処理のまま流出することになった」。

② 因果関係に関して、本件では、Xの健康不調のうちの一部が生じた原因の1 つが本件中継所の排水中に含まれていた硫化水素であることについては、当事者間で争いがなかった。

他方、本件中継所から排出されるその余の化学物質が原因となってXの健康不調を生じさせたとするXの主張に対し、判決は、「Xの症状と本件中継所操業に伴って排出された化学物質との間の因果関係が認められるためには、①Xの症状発現時に本件中継所がXの症状を発現させ得る程度の化学物質を排出していたこと、②Xが本件中継所が排出していたXの症状を発現させ得る化学物質を暴露したこと、③Xの症状が暴露した化学物質によるものであることが、高度の蓋然性をもって認められることが必要である」としたうえで、本件では、「Xが症状を発現したとする平成8 年3 月から6 月末ころまでの間において、本件中継所からいかなる化学物質がどの程度の量ないしは濃度で排出されていたのかについては、的確にこれを認定し得る証拠はない」とした。とりわけ、Xの主張する高濃度のホルムアルデヒド、ベンゼン、ジクロロメタンが排出されていたことを推認させる証拠はないし、周辺住民の健康不調と本件中継所の操業時期との一致という事実からは、直ちに、本件中継所からXの健康不調の原因となる程度の硫化水素以外の化学物質が排出されたものと推認することはできないとした。

また、平成8 年11 月におこなわれたアンケート調査と同年7 月におこなわれたモニタリング調査との健康不調者の割合の単純比較だけでは、本件中継所から排出される有害物質の量、濃度の推移を推測することができないとした。

さらに、本判決は、「大気拡散モデルを利用した排気塔及び換気塔からの排気の拡散シミュレーション等による立証も行われていない本件においては、本件中継所からどのような濃度の有害物質が排出された場合にそれがXの自宅を含む周辺地域にどのような濃度で到達するのかが明らかでなく、Xの上記主張を裏付けるに足りる客観的証拠はない」とした。

③ 本判決は、Xの症状についても触れ、Xの訴える化学物質過敏症の症状はいずれも自覚症状のみであり、他覚所見にきわめて乏しいものであること、化学物質過敏症に罹患しているか否かを他覚的に診断するには二重盲検法による検査をするしかないのに、Xがこの検査を受けていないこと、Xの症状はXが罹患した下垂体腺腫等の要因による可能性も否定できないこと、Xの訴える症状は多分に心因的なものである疑いが強いことを指摘した。5