また、カナダのノバスコシア州の州都ハリファックス地域都市は無香料の啓発プログラムを実施、2000年には「香料不使用の方針(No Scent Policy)」を市の職場から自治体施設の公共スペースに拡大することを評議会で承認して、法による規制ではないものの公共施設での香料不使用の取り組みを自治体として奨励しており34, 35 ,38)、施設のホームページでも着香製品不使用のお願いや香料の問題に関する啓発がされています36 ,38)。学校や図書館、バスでの着香製品の自粛など、この動きはノバスコシア州にも拡がっているそうです37,38)。
日本で先進的に取り組んだのは岐阜市です。
「香料自粛のお願いポスター」を全市的に掲示して呼びかけるキャンペーンを始めたのが2005 年で32,39)、その後2008 年から2009 年頃に、岐阜市のポスター40)や公共の場での香料自粛を初めて呼びかけた水郷水都全国会議での掲示ポスター41)の文面等を参考に、各地の自治体で独自のポスターが作られ、ホームページで呼びかけたり、各地の学校や病院、公共施設等でポスターを掲示したりする動きが拡がりました8)。
岐阜市や岐阜県は、香料の影響はすべての子どもたちの健康に関わる問題ととらえて、過敏症の子どもが在籍している学校だけでなく、各施設や各学校にポスターを掲示するよう通知を出しています。
しかし、多くの自治体では、基準となるポスターをHPにアップして掲示を勧めていても通知発出の対応はほとんどなく、掲示は各施設の判断に任されています。
また、ポスターの掲示だけでは改善されないという実態もあり、香料の健康影響についての学校関係者の認識を深めるための啓発や、学校等における香料自粛を進めるための他の啓発方法等の工夫が必要で、また、化学物質に過敏な児童生徒等にいじめ等の二次被害が生じないようにする配慮も必要です。
学校の判断で、香料自粛のお願いのポスターを玄関や校舎内、行事の際の立て看板に掲示したり、行事の案内文書に、香水や整髪料等アレルギー反応を引き起こす恐れのある製品の使用を控えるようお願い文を掲載したりするなどの対応をしてくださる学校もあります。
また、過敏症の児童生徒のためにと強調することで当該児童生徒が孤立したりすることのないよう、全生徒に、学校は、理由がある場合を除いて香粧品をつけてくる場所ではなく、特に強い香りはふさわしくない等の説明をするなど配慮してくださる学校もあります。
ただ、個別対応として、化学物質過敏症の児童生徒のいる学校だけが取り組んでいるだけでは、当該児童生徒が高校や大学への進学後、他の学校で香料使用が当然のこととして過ごしてきた多数の生徒の中で個別配慮から香料自粛をお願いすることに非常に高いハードルが課せられてしまうという問題が生じます。
個別の配慮を求めることだけで問題に対処することには限界があって、いじめや嫌がらせなど別の懸念も生じます。
学校での香料暴露に苦しむ子どもたちがいること、アレルギーや喘息、シックハウス症候群のお子さんなど、いつ香料暴露により化学物質過敏症を発症するかわからない子どもたちもたくさんいること、香料が発達途上にある子どもたちに健康上の悪影響を与える可能性があることなどをまず先生方に知っていただきたいと思います。
先生方に模範となって香料をできるだけ控えていただき、児童生徒や保護者に向けてアドバイスをしていただくことができたら、どんなに多くの子どもたちが救われることでしょう。
先生や職員の方たちに学校等での香料自粛に率先して取り組んでいただけるように、基準や参考を示していただけないでしょうか。
なお、ポスター案等の基準を示す際には、どうか、定義や説明は正確な表現で、誤解を与えないような表現にしてください。
岐阜市や岐阜県のポスター42)をはじめ現在多くの自治体で掲示されているポスターでは、化学物質過敏症の定義に関する記載が不十分ですが、岡山県倉敷市など一部の自治体で、厚生科学研究「化学物質過敏症に関する研究(主任研究者:石川哲北里大学医学部長(当時))」(平成8年度)で示された定義「最初にある程度の量の化学物質に暴露されるか、あるいは低濃度の化学物質に長期間反復暴露されて、一旦過敏状態になると、その後極めて微量の同系統の化学物質に対しても過敏症状を来たす」43)に準拠して見直され、一度に多量の暴露によるだけでなく微量でも長期間の反復暴露によっても発症することの両方について記載があるポスターがあります44,45)。
化学物質過敏症の名称や概念については議論があり、平成15 年度に厚生労働省で開催された室内空気質健康影響研究会により、既存の疾病概念で説明可能な病態を除外する必要性等があるものの「微量化学物質曝露による非アレルギー性の過敏状態」を示す病態の存在は否定できないとして、病態解明や感度や特異性に優れた検査方法、診断基準の開発等の研究の更なる進展が必要との見解が示されています46)。
報告書において、現状では混乱があるとして精度を高める必要性は指摘されていますが、「日本では石川らの提唱する『化学物質過敏症』が一般に使用されている」と述べられており、その後、平成21 年10 月には、標準病名登録マスターに「化学物質過敏症」が病名として登録されました8)。今後も研究の進展が望まれますが、現在のところ、一般には、石川らが提唱した概念、定義の大意が継承されて病名として使用されていると考えられます。
岐阜市をはじめ多くの自治体のポスターでは、「最初にある程度の量の化学物質に曝露して過敏状態になる」ことについては記載があっても、「低濃度の化学物質に長期間反復暴露して過敏状態になる」ことについて記載がなく、実態を表す正確な表現と言えないため、見直していただく必要があります。