Ⅳ.考察
本研究は、平成23年夏に行ったCS 患者の心理社会健康調査票の自由記述欄の内容を分析したものである。
この調査では、スクリーニングテスト(QEESI)、病気の不確実性(MUIS-C)、QOL(QUIK-R)の3尺度より構成された用紙を使用し、その末尾に、A4用紙2枚分の自由記載欄を設けた。
アンケートの配布より1か月経過した時点で250通の返信があり、回答者の70%が自由記述欄に何らかの意見を記入していた。その記述量の多さと深刻な内容こそが、測定尺度には反映されないCS 患者の実態であり、看護学の視点から大切に取り扱うべき患者の訴えであると判断して分析を行った。
CS 患者のソーシャルサポートの不足については、既に1999年にGibson が報告している 6)。
しかし、その後13年が経過した本調査においても、CS 患者の中には、家族や友人、職場の理解不足に悩む人が存在することが明らかとなった。
2009年10月、日本ではCS が傷病名マスターに登録された。
しかし、周囲の人の病状に対する理解不足を感じている患者は、自分の病気は他者に対して説明が困難であり、社会的に病気を受け入れてもらえないと思っていた。事実として、CS の発症メカニズムや病態生理が明確にならないことを理由に、その病気の存在を否定する医療従事者がいるのは残念なことであるが、看護職は、患者を目前にして、そのような理由で支援を怠ることが許される職業ではないであろう。
よって、生きる上での様々な困難を感じながらも、自己対処をするより他に術がないというCS 患者の現状は、医療職による支援が最も必要な部分であると考える。
CS になっていく過程には、化学物質に曝露してショックを受け血圧低下や精神・神経活動の抑制が起こる「警告期」、次に、長期間化学物質に曝露され続けることで一見症状が軽快したかのように感じられる「マスキング期」、さらに、警告期やマスキング期に原因物質を除去しないで過ごした場合に至ってしまう「器官衰退期」がある。
患者が化学物質過敏症らしいと気付くのはだいたいこの段階(器官衰退期) 7)という指摘もある。
よって、そのような患者の状況を改善するために、看護職は、CS 患者のための看護相談室を運営し始め、患者の早期受診を促進している 8)。
まずは、医療従事者がしっかりとCS を認識しなければ社会全体の認知度は向上せず、CS の社会的認知度を向上させることは、看護職として取り組める患者支援活動のひとつであると考える。
本研究において、患者は、医療職のCS に関する無知と配慮の無さを指摘していた。
2007年、米国の看護雑誌に、CS 患者の入院時の準備に関する論文 9)が掲載されたが、日本では、一般病院における臨床看護師からの報告は見られない。
本調査においてCS 患者が感じていた病院の問題は、今後、看護師となる私達が取り組み、解決していかなければならない課題であると考える。
今後、本研究を深化させ、更に検討を重ねていきたい。
謝辞
本研究のアンケートにご協力いただきました患者様と化学物質過敏症支援センターのスタッフの皆様に感謝申し上げます。
本研究は、平成23年度三重大学医学部看護学科卒業論文に加筆修正を加えたものであり、一部を第20回日本臨床環境医学会総会において報告し、学生部門優秀賞をいただきました。
学会関係者の皆様に感謝申し上げます。
本研究は、平成21-23年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(B);課題番号21390566)を受けて行ったものである。
注釈
SHS:Sick House Syndrome(シックハウス症候群)
文献
1)Cullen MR: Multiple chemical sensitivities,summaryand directions for future investigators. OccupationalMedicine 2: 801-804, 1987
2)Nami Imai,Yoshiharu Imai:Necessity of CounselingInstitutions for Sick Building Syndrome Patients. SickBuilding Syndrome in Public Building and Workplaces,Springer, New York, 2011, pp261-267
3)Rea W J: Definition of chemical sensitivity. ChemicalSensitivity Volume 1, CRC Press, Florida, 1992, pp7-16
4)今井奈妙、本田育美、江川隆子、城戸良弘:新築住宅内の有害化学物質により健康障害に至った人々の診断確定までの経験.日本難病看護学会誌 9:120-129、2004
5)Imai N, Imai Y, Kido Y: Psychosocial factor that aggravatethe symptoms of sick house syndrome in Japan.Nursing and Health Sciences 10: 101-109, 2008
6)Gibson PR: Hope in multiple chemical sensitivity. Socialsupport and attitude towards healthcare delivery as predictorsof hope. J. Clin. Nurs 8: 275-283, 1999
7)宮田幹夫:化学物質過敏症 忍び寄る現代病の早期発見と治療(2版).(株)保健同人社、2002、pp22-24
8)今井奈妙、辻川真弓、本田育美、櫻井しのぶ:化学物質過敏症看護相談室の設置効果に関する検証.日本臨床環境医学 17:21-28、2008
9)Cooper C: Multiple Chemical Sensitivity in the ClinicalSetting. Am. J. Nurs, 107: 40-48, 2007