・研究テーマ
研究の要旨
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シックハウス症候群における嗅覚異常:fMRIを用いた新しい嗅覚検査法による検討
:fMRIを用いた新しい嗅覚検査装置を開発した。
この新しいfMRIシステムを用いてシックハウス症患者7名と年令対照10名について嗅覚刺激による脳賦活の違いを検討した。
その結果、バニラでは患者群でむしろ賦活の程度が少ない以外、大きな相違を認めなかったが、トルエン刺激では健常者ではバニラ刺激と類似の広範な大脳皮質主体の賦活パターンが得られたのに対して、患者群に於いては大脳皮質賦活の程度が少ない一方で、脳幹、小脳、間脳、大脳辺縁系付近で強い賦活が見られた。
これらは最近の報告でパニック障害などの疾患における恐怖反応の責任病巣として報告されている部位にも近い。
現時点では未だ検査症例数が限られており確定的なことは言えないが、以上の結果は、シックハウス症候群に於いて、特定の物質による嗅覚刺激が強い不安を生じさせる結果、一連の症状を引き起こすことを示唆する。
シックハウス症候群の病態を理解する上で極めて興味深い結果であると考えられた。
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「微量化学物貿によるシックハウス症候群の病態解明、診断、治療対策に関する研究」3年間のまとめ
:シックハウス症候群の概念やメカニズムは明確に確立しておらず、疾病概念の確立を目指し、客観的検査方汝を模索した。
まずシックハウス症候群の疑いで受診した患者についての調査票から臨床分類を試みた。
分類を1型から4型までとし、1型(化学物質による中毒症状出現の後シックハウス症候群の症状が出現)、2型(化学物質曝露の可能性が大きい)、3型(原因として化学物質曝露は考えにくく、心理・精神神経反応が主として考えられるもの)、4型(アレルギー疾患その他の疾患)と提案した。
磁気共鳴撮像(functional magnetic resonanceimaging、以下fMRI)を用いて、化学物質曝露こ起因するシックハウス症候群と対照群について撮像された脳画像を検討し、病態解明と診断法に用いられるかどうか検討した。
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シックハウス症候群は心身医学的にどのような病気か
:【目的】シックハウス症候群の主要な基礎疾患の一つと考えられている化学物質過敏症(MCS;Multiple Chemical Sensitivity)に関して、日常生活下での特徴を明らかにすること。
【方法】MCS患者14名とコントロール群12名を対象にして、(1)小型コンピュータ及びホルター型心電図・体動記録装置によるEcologicalMomentary Assessment(EMA)を用いて、MCS患者の実生活中の自覚症状とそれに伴う心拍変動のプロフィールを明らかにする。(2)Activesampling-Passivesampling (AS-PS)法を用いて、MCS患者の多様な化学物質に対する反応性を明らかにする。(3)両者の測定を同時に行い、自覚症状及び自律神経系反応と化学物質への曝露の対応関係を明らかにする。(4)さらに、体動と心拍の連続測定を行い、1日を通したMCS患者の体動と心拍変動の特徴を明らかにする、MCS患者19名を対象にして、上記(4)の結果をさらに検討する。
【結論】EMA研究により「多様な症状が、低濃度の多様な化学物質に反応して多臓器に起こり、化学物質を回避することによって症状が消失する」という本病態の定義が確認された。