慢性疲労症候群に陥るメカニズム:3 | 化学物質過敏症 runのブログ

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6.脳・神経機能異常

 CFS患者の脳機能異常に関しては、最近のさまざまな解析により以下のような異常が明らかになってきており、CFSにおける不定愁訴は脳の機能異常に基づくものであると考えて間違いないと思われる9)。
1.single-photon emission tomography(SPECT)解析
 前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、基底核などにおける局所脳血流量の低下
2.positron emission tomography (PET)解析

ア)H215Oを用いた局所脳血流量の解析
 前帯状回、眼窩前頭野、背外側前頭野などの前頭葉のほか、側頭葉、後頭葉、基底核、 脳幹部などさまざまな部位の局所脳血流量の低下

イ)[18F]fluorine-deoxyglucose (18FDG) 解析
 右内側前頭皮質、脳幹部、帯状回やその近傍の内側皮質における糖代謝の低下

ウ)アセチルカルニチン代謝
 自律神経系の調節や情動などに深く関連している前帯状皮質24野と、意欲やコミュニ ケーションにおいて重要な前頭皮質9野において有意に低下
エ)脳内セロトニン輸送体の発現( [11C](+)McN5652を用いての検討)
 前帯状回のBrodmann24/32野の一部(吻側部分)において有意に低下


慢性疲労症候群に陥るメカニズム

 最近の研究によりCFS患者でみつかってきた種々の異常はそれぞれ独立して存在しているのではなく、お互いに密接に関連していることが明らかになってきた(図1)。

すなわち、CFSは種々の環境要因(身体的・精神的ストレス)と遺伝的要因によって引き起こされた神経・内分泌・免疫系の変調に基づく病態であり、NK活性低下などの免疫力の低下に伴って潜伏感染していた種々のヘルペスウイルスの再活性化が惹起され、これを制御するために産生されたTGF-βやインターフェロン(IFN)などのサイトカインが上述のような脳・神経系の機能障害を生じているのではないかという仮説を考えている。

 井上らは、強制的に運動させて作成した疲労モデルラットについて検討したところ、運動によって引き起こされる生理的な疲労感の伝達にはTGF-β3が関与していることを報告しており10)、TGF-βの上昇が疲労病態と関係している可能性がある。

実際、血清TGF-βの上昇は、多くのCFS患者で共通して認めている数少ない異常の1つであり、我々のCFS患者の検討でも有意な血清TGF-βの上昇が認められている。


 またTGF-β以外のサイトカインとしては、インターフェロン(IFN)もCFS病態に関連している。九州大学の片淵らがpolyI:Cを腹腔内に投与した感染疲労マウスの解析を行ったところ、脳内でのINF-αmRNAの発現増加とともにセロトニン輸送体mRNAの発現増強が確認され、さらにマウスの行動量の低下はSSRI投与により回復したという11)。

このことは、我々が風邪を引いたときに自覚する倦怠感などにもINFやセロトニン輸送体の発現増加を介したセロトニン代謝の異常が関係していることを示唆している。


 以上の知見をまとめてみると、CFSの多くは環境要因(身体的・精神的ストレス)と遺伝的要因が関係した神経・内分泌・免疫系の変調に基づく病態であり、ウイルスの再活性化や慢性感染症によって惹起された種々のサイトカイン異常による脳機能障害である可能性が高い。

本稿ではTGF-β、INFとの関係について主に述べてきたが、癌末期など悪液質時に自覚する激しい疲労感にはTNFが関与していることも知られており、TNFを含めてIL-1、IL-4、IL-10などさまざまなサイトカインが疲労感に関係している可能性があり(図1)、今後それぞれのサイトカインについても、1つ1つどのような脳機能異常と結びついて臨床症状とつながっているのかを明らかにする必要がある。尚、免疫異常のところで紹介したように中には自己抗体(神経伝達物質受容体抗体や抗核抗体)が直接脳・神経系の機能障害と関連していると思われる症例も存在しており、CFSを単一な疾患群と考えてはならない。


runより:図は次の記事で掲載します。