3.感染症の関与
CFS患者では、喉の痛みや発熱とともに強い筋肉痛、脱力感、関節痛などのインフルエンザ様症状が認められることや、集団発生が欧米各地でみられたことより以前より感染症の関与が疑われ、CFS病因ウイルス発見の努力がなされてきた。その代表的なウイルスとしては、Epstein-Barr(EB)ウイルス、エンテロウイルス感染症などがある3)。
また、CFSの中にはウイルス感染症だけでなくクラミジア、マイコプラズマ、コクシエラ、トキソプラズマ、カンジダなどの感染症がきっかけとなり発症した症例が少なからず存在することより、厚生省CFS診断基準では明らかな感染症後に発症した症例は「感染後CFS」として区別している3)。
日本でも平成3年九州地方において肺炎クラミジアに感染した86名の内12例がCFSに罹患したという集団発生例も確認されている3)。
しかしCFS患者でみつかってくる多くの感染症は、種々のヘルペスウイルスの再活性化やマイコプラズマ、コクシエラ、トキソプラズマなどの慢性感染症であり、免疫力の低下が関連しているものと思われる。
社会心理的なストレスがNK活性などの免疫力の低下を引き起こすことは良く知られており、前述した社会心理的なストレスと遺伝的因子が関係しているものと思われる。
4.免疫異常
CFSではアレルギー歴を有する人が多く、また抗核抗体の出現、免疫グロブリン異常、血中免疫複合体の増加、NK活性や単球機能の低下、リンパ球のサブセット異常、種々のサイトカインの異常などが報告されており、何らかの免疫異常がCFS病態に関与していることは間違いない4)。
我々は、阪大病院に通院中のCFS患者における自己抗体について検討したところ、115例中61例と高率に抗核抗体を認め、18例では抗DFS-70抗体が陽性であることを見出した5)。
DFS-70をコードするcDNAは、RNA polymerase II依存性転写因子や水晶体上皮由来の増殖因子のcDNAとほぼ同一であり、この抗体自身の存在が直接細胞障害を引き起こすことも報告されており、CFS病態を修飾する1つの原因となっている可能性も考えられる。
また、最近神経伝達物質の輸送体や受容体に対する自己抗体がCFS病態に関与しているのではないかと考え、大阪大学大学院生体情報医学講座との共同研究により、ムスカリン1型アセチルコリン受容体、セロトニン1A受容体、ドーパミンD2受容体、オピオイド?受容体に対する抗体の検索を行ったところ、抗ムスカリン1型アセチルコリン受容体抗体がCFSの半数以上で陽性であり、脱力感や思考力の低下と有意に関連していることが判明した6)。
これまでは、脳血液関門が存在していることよりこのような自己抗体が直接脳に作用するということはあまり想定されていなかったが、最近では種々の自己抗体が脳・血液関門を越えて脳機能異常を惹起しているのではないかという考えもあり、抗ムスカリン1型アセチルコリン受容体抗体がCFS病態の1つの原因となっている可能性もある
尚、我々は免疫応答によって産生されるTGF-βやインターフェロン(IFN)、TNFなど各種のサイトカインの異常がCFSに到るカスケードに重要な役割を担っているのではないかと考えており、サイトカインの異常とCFSとの関連については慢性疲労に陥るメカニズムのところで紹介する。
5.内分泌系の異常
Demitrackら7)がCFS患者では視床下部・下垂体・副腎系の異常がみられることを報告して以降、これまでに数多くの内分泌異常がCFS患者で報告されており、CFS患者で何らかの内分泌異常が存在することは間違いない。
これまでに報告されてきた異常としては、血清コルチゾール減少、血漿ACTH増加、尿中カテコラミンの上昇、抗利尿ホルモン基礎値の減少と全身水分量の増加、ACTH試験における副腎感受性の亢進と最大反応性の低下、インスリン誘発低血糖時においてプロラクチンや成長ホルモンの分泌異常などがあげられる。
我々もCFS患者における内分泌系機能について調べていたところ、性ホルモンの前駆体である血清dehydroepiandrosterone sulfate(DHEAS)がCFS患者では明らかに減少していることを見出した8)。
減少が強い症例では脱力感や記名力の低下が強くみられていた。
最近では、DHEASは脳内で合成され神経伝達物質の代謝に影響を与える神経ホルモンであることも分かってきており、内分泌機能異常が疲労症状を修飾している可能性もある。
尚、CFSではしばしば抑うつ状態を合併することよりうつ病との鑑別が問題となっているが、うつ病患者では血液中のコルチゾールが上昇していることが多いのに対しCFS患者では減少していることが多いこと、buspirone負荷試験ではうつ病患者に見られるセロトニン受容体のup-regulationが認められないこと、3-methoxy-4-hydroxy-phenylglycolはうつ病患者では健常者に比し増加しているのに対して、CFS患者では減少していることなど、CFSで認められる内分泌異常はうつ病とは少し異なることが報告されている。