早期警告から行動までの遅れを減らす
早期警告からの遅すぎる教訓の1 号と2 号の症例研究の大部分は、「懸念に基づく合理性」によって正当化された早期警告に基づいて、予防原則が採用されていたら、生態系への多くの損害が避けられ助けられただろう、と示す。
従って、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、情報通信テクノロジーなどの大規模で新しく現れた技術が、これらの事例研究や他の研究から学んだ教訓や経験に基づいて、予防原則を適用することが非常に重要だ。
予防(原則)的活動は、革新を遅らせるよりも、刺激となるようだ。それらは確実に、過度の間違った警告にはつながらない。
2 号の分析で示したように、危害が潜在的なリスクとして間違って管理された「偽陽性(訳注:本当は陽性ではないのに検査結果が陽性になること)」を主張する88 例のうち、4 例だけが本当に正しくない警告だった。
正しくない警告のコストがいくらかあったとしても、信頼できる早期警告に基づく行動または無作為について間違っている不均整なコストを考えると、害を避ける方向へ公衆政策を移すことは値打ちがあるようだ、と主な「偽陰性」事例研究の危害の規模と頻度は示している。
しかしながら、今日の技術的確信の速さと規模は、時宜に応じた行動を抑制することが可能だ。
これはしばしば、害の明らかな証拠が確立された時までにその技術が修正され、それによって、安全だという主張がその後再び許されるからだ。
技術的変更が不十分でも、巨大で、しばしば世界的な投資規模は、広範囲の技術的束縛に結びつき、そのために変更が困難で高価になる。
現在の技術革新に関するこれらの特徴は、「科学的因果関係」に達するために通常使われるよりも、弱い証拠で行動し、早期警告信号をもっと深刻に受け止める事例を強調する。
歴史的な事例研究の大半は、そのような因果関係の強い証拠が手に入るまでに、人々と生態系への害が最初に確認されたときよりもさらに多様になって広範囲に広がり、最初に考えられた危険性よりももっと低い被曝でも起きるかもしれないことを示す。
事例研究は、予防(原則)的行動にたいする多数の障壁があることも示した。
それは下記を含む。ほとんどの政治的、経済的限界の短期間の特徴。
技術的独占の存在。科学者が操作する個別の「密室」を含む、科学の保守的な性質。
幾人かの利害関係者の力。しばしば現状を支持する公的な政策立案の文化的、社会制度的状況。複雑な影響と脅威を扱う場合に複雑さを認める
科学的知見の増加は、ストレス因子と害の因果関係は過去に考えられたよりも更に複雑で、害を最小限にする現実的な結論があることを示す。
がんや種の減少などの、1 号と2 号で述べられた危害の多くは、単独または共に作用する共因果関係のいくつかの因子で起きる。
例えば、子どもの知力の減少は、社会経済的因子だけでなく、石油の中の鉛や水銀、ポリ塩化ビフェニール群(PCBs)に関連することがある。
蜂の巣崩壊は、ウィルス、気候変動、ニコチノイド系殺虫剤に関わることがある。
そして気候変動自体は、多くの複雑で、科学的、物理的プロセスの相互関連によっておきる。