(6)吸入曝露による影響を経口毒性試験結果からどのように評価するかについて
農薬については、農薬取締法に基づく農薬登録の際に、毒性に関する種々の試験成績の提出が義務づけられており、農薬の安全性に関する情報は他の化学物質に比べて多いと考えられる。
しかし、その多くは経口曝露に係る毒性試験成績であり、吸入曝露による毒性試験についてみると、ほぼすべての農薬で急性吸入毒性試験が要求されているものの、亜急性吸入毒性試験は必須ではなく、急性吸入毒性以外の情報は限られていることから、多くの場合、経口毒性試験の結果から吸入曝露による影響の評価を行わなければならない。
海外で労働環境以外の一般環境における農薬の吸入曝露に対する安全性評価指針を定めた例は、我々の調査した範囲ではなかった。
一方、我が国でこのような評価を行ったものとしては、「農薬環境動態影響調査(大気)検討会―平成3年度とりまとめ―」(環境庁水質保全局、平成4年3月)及び(社)農林水産航空協会が医学、農薬学等の専門家に委嘱し、日本産業衛生学会の許容濃度を基に設定した「航空散布地区周辺地域の生活環境における大気中の農薬の安全性についての評価に関する指針」(平成3年3月)(参考資料7)がある。そこで、これらにおいて示された
指針値も参考にしつつ、以下の問題について検討を行った。
① 経口毒性試験成績から吸入毒性を推定する際の問題点
a.経口毒性試験成績をもとに吸入毒性を評価する際の問題点として、
①腸管と肺における農薬の吸収率の差、
②腸管吸収の場合の肝初回通過効果の検討を行った。
①に関しては、標識化合物を用いた動物代謝試験において求められた尿中排泄率(尿中の標識体量/投与した標識体量)を腸管吸収率として用いることも検討したが、本来、吸収率は尿中排泄、胆汁排泄、呼気中排泄の総和としてとらえられるべきものであり、そのうちの尿中排泄率のみをとりあげて、これを腸管からの吸収率とみなすことには限界があると考えられる。
肺吸収率についても、現時点では、評価のために十分な知見が得られているとは言い難い。
また、②に関しても裏付けとなるデータがなく、これを定量的に評価することは難しいと考えられる。