2.安全性評価の基本的考え方
(1)担保すべき健康の範囲について
航空防除農薬による散布地周辺の地域住民への健康影響評価に当たり、担保すべき「健康」の範囲を明らかにしておく必要があると考えられる。
そのためには、昭和53年3月に中央公害対策審議会大気部会二酸化窒素に係る判定条件等専門委員会が示した、環境大気中の二酸化窒素による人の健康影響についての考え方が参考になると思われる。
同専門委員会では、大気汚染の健康への影響の程度の概念を6段階に分類整理し、そのうちの第3段階である「観察された影響の可逆性が明らかでないか、あるいは生体の恒常性の保持の破綻、疾病への発展について明らかでない段階」を健康状態からの偏りと位置づけた上で、このような偏りが見いだされない状態を担保すべき健康と定義している(参考資料4)。
航空防除農薬の健康影響評価に当たっても、基本的にはこの中央公害対策審議会専門委員会の考え方が準用できると考えられる。
(2)想定すべき健康影響の評価について
1.(2)でも述べたように、航空防除は限定した地域で平均年2~3回、多い場合で年5回(主として6~8月)程度行われ、気中濃度の実態調査結果にみられるように、散布後長い場合でも数日(おおむね5日以内)で検出されなくなる。
航空防除のこのような実施実態及び曝露期間を考慮すると、基本的に亜急性の影響として評価すべきであると考えられる。
(3)農薬の一日摂取許容量(ADI)との関係について
農薬の一日摂取許容量(ADI)とは、人が生涯にわたって当該農薬を摂取したとしても安全性に問題がないと認められる1日当たりの農薬摂取量であり、作物残留及び水質汚濁に係る登録保留基準はこのADIを考慮して決められている。
一方、航空防除農薬による健康影響は、2.(2)でも述べたように、亜急性的なものであり、慢性的な健康影響を評価したADIとは性質を異にすると考えられることから、例えば、水質汚濁に係る登録保留基準を設定する場合のようにADIの配分を予め設定する手法は、必ずしも妥当でないと考えられる。