その歴史を見ると,「当初は通信距離が長いことに価値があった。ところが近年は携帯電話や無線LANなど,通信距離の短いものが市場を広げていった」と慶応義塾大学教授の中川正雄氏は述べています(「公共インフラからコンシューマ通信へ,変貌を遂げたワイヤレス通信技術」,日経エレクトロニクス,2007年4月9日号,NEプラス参照)。
このような流れは現在も続いており,携帯電話や無線LANが実用化した後,BluetoothやZigBee,UWB,WirelessHDなど,数々の短距離ワイヤレス通信技術が生まれています。
さらに短距離のワイヤレス技術といえるのが,最近注目を集めている「人体通信」です。
これは人体を伝送路として使う通信技術で,例えば人体通信機能を備える携帯電話機やICカードをポケットに入れている人が端末に手をかざすだけで,鍵の施錠・開錠や鉄道の改札などを行うという使い方が提案されています。
あるいは,カップルが手をつなぐと携帯型プレーヤーの音楽を2人で同時に聴くことができるといった応用も考えられています。
つまり,人間の周囲で通信を行うBAN(body area network)の技術の一つとして,人体通信が脚光を浴びるようになってきました。
つい最近,人体通信の動作原理を使って心電情報を計測する装置「人体通信簡易心電計」が試作されました(関連記事「人体通信の応用がセンサ/計測分野に広がる,遠隔医療用の簡易心電計をアンプレットが試作」,関連セミナー「人体通信の最新技術動向とビジネス展開」)。
その装置の椅子に人が座り,両手を左右の肘掛けの電極に載せるだけで,心臓の動きを計測しそのデータをインターネット経由で遠隔地へ伝送することができます。
この装置を開発したアンプレット 代表取締役社長(東京電機大学 講師)の根日屋英之氏によると,「人体を人体通信の送信機ととらえることができる」そうで,究極の短距離通信といえるのかもしれません。
ただし,心臓の振る舞いをセンシングあるいは計測しているとも言え,用途は通信と異なってきます。