・出展:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
http://kokumin-kaigi.org/
http://kokumin-kaigi.org/wp-content/uploads/2013/02/newsletter76.pdf
・低線量放射線の次世代への影響
井上達先生(日本大学医学部機能形態学系
生体構造医学分野)の講演の報告
環境脳神経科学情報センター代表黒田洋一郎
福島の原発事故のあと、放射性物質が広範囲な地域を汚染し、汚染地域で生活する人々(ことに子ども)の健康影響、汚染地域からとれる農産物や水産物の安全性が緊急の大問題となった。
「放射線は人体にどのような影響を与えるのか」「化学物質の毒性とどのように異なるのか」を井上達(とおる)先生にお話いただくことになった。
先生は米国ブルックへブン国立研究所をはじめ原子力安全研究に長く携わり、放射線医学研究所室長、国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター長などを歴任されており、放射線と化学物質の両方の健康被害や発がんの仕組みを熟知された、日本では稀な毒性学の「本当の専門家」である。
「 なぜチェルノブイリなどで起こった広範な健康被害が“原発(原子力)ムラの専門家”によって無視され、“安全”が安易に言われているか」「なぜ低線量や内部被ばくでおこる影響がわかりにくく、危険性が過小評価されてきたのか」の理解のための重要な基礎知識が、最新の遺伝子発現解析の実験データとともに示された。
講演では、遺伝子(DNA)の発現(働き)によって発達し、機能する非常に複雑な人体の仕組みへの放射線の影響という、超複雑、多岐、短期から長期にわたる現象を短い講演時間内で正確に説明するため、専門用語を使わざるをえず、また専門的データの意味を理解するにも、かなりの予備知識が必要だったと思う。
ここでは先生の談話をもとにまとめられた論文『放射線の「確率的影響」の意味』(『科学』2012 年5月号)を参考に、報告者なりの解説をまじえて紹介させていただく。
放射線の危険性は化学物質とは異なり“許容量”はなく“恕限度”である
放射線を浴びて無傷であることは、厳密にはありえない。
放射線により核酸(DNA)が切断されても修復は起こるが、その修復には一定の確率で必ず失敗(エラー)が起きる。
したがって放射線には無視ないし許容できる量というものがなく、化学物質のように“許容量”という言葉は使えず、“恕限度”といわれてきた。
化学物質は体内に入ると比較的ゆっくりした化学反応の連鎖を起こし、細胞や器官に変化を与え、その変化に病気や障害などマイナスの影響がある場合、毒性があるという。
毒性化学物質でも解毒による修復や排泄などで処理されることがあり、生物進化の過程で獲得された元々ある細胞内の化学反応システムの違いにより毒性の強さなど影響が異なる。