・大気中における粒子状物質の挙動
大気中のPMは多成分の混合物であり、その発生源や挙動は粒径により大きく異なる。
そのために、大気中におけるPMの挙動や人への健康影響を理解するためには、単に粒子の質量濃度だけでは困難である。
粒径別の質量濃度と化学組成(さらに数濃度、表面積も)を知らなければ、それらによる影響の程度を正確に予測評価することはできない。
従って、いずれの環境でも粒径別に化学組成の同定と質量濃度の測定は必要であり、人の健康に与える影響が大きいものほど低濃度での正確な測定とその発生制御が重要となる。
PMはその生成機構により、一次発生と二次生成に分類される。
前者は発生源からPMとして直接大気中へ分散放出されるものである。
後者は大気中への放出時には気体であるが、放出後の冷却や化学変化を伴って、より揮発性の低い物質に変化し、それらが自己凝縮または既存粒子上に拡散付着して相変化を起こし、二次的に粒子となるものである。
大気中における粒子状物質の粒径と挙動の関係を図2に示す。
図2●大気粒子状物質の粒径と挙動の関係
出典)Atmos. Environ., 1978, Whitby
海塩粒子、風煤じん、火山灰や花粉などは自然起源の一次発生の粗大粒子であり、化石燃料からエネルギー生産に伴って発生する煤煙や黒煙の多くは、人為起源の一次発生微小粒子である。
一方、大気中へ放出された時はVOC、SO2、NOx、塩化水素(HCl)、アンモニア(NH3)などのガス状物質であったものが、光化学反応や中和反応を経て揮発性の乏しい極性分子へと変化し、粒子化して二次生成粒子となっていく。
これらの二次生成粒子の前駆体が燃料燃焼に伴うSO2、NOx、VOCの発生などの人為起源か、イソプレンやテルペン類などの植物由来の揮発性有機化合物(BVOC)などの自然起源かにより、人為起源の二次生成粒子、自然起源の二次生成粒子と分類される。
これらの粒子は発生形態を反映して組成や粒径が異なり、大気中での存在寿命の長い粒子蓄積領域の微小粒子として存在している。そのため、呼吸器系奥深くまで吸入され人の健康に影響を与え、可視光の吸収散乱により視程障害や地表面温度に影響を与えている。
粗大粒子は、重力沈降により大気中から除かれていくが、微小粒子は比較的拡散速度が小さく、重力沈降の影響もあまり受けない。
そのため、微小粒子の主たる除去機構である降雨等(主として雲粒の核となって除かれるレインアウト、一部は雨粒に取り込まれて大気中から除去されるウォッシュアウト)がない場合は大気中での滞留時間は長期にわたるため、問題となる日以前の累積も高濃度汚染を引き起こす要因となる。
よって高濃度汚染のときほど、PM中の人為起源の粒子濃度が高くなる傾向にある。
なお、図2における最も小さい粒径範囲のエイトケン粒子領域の粒子は、拡散係数が大きいので、高濃度に発生してその多くはただちに互いに凝集して粒子蓄積領域の微小粒子へと変化してしまうため、その寿命は極めて短い。