・図1 エアロゾル (微小粒子) のエアロゾル質量分析計で測定した化学組成の割合
2007年春季には、長崎県においてSingle Particle Soot Photometer(SP2)を用いたBCの質量濃度の測定とその被覆状態の観測を行いました。
SP2はBCを含む粒子にレーザ光を照射し、BCが発する白熱光の強度からBCを定量的に測定します。
2007年春の長崎での観測によると、大陸から移流してくる場合にはBCの重量濃度は0.5μgm-3程度でした。
硫酸塩の質量濃度(5μgm-3程度)の十分の一です。
SP2を用いてBCと混合している物質の割合を推定しました。
BCの周りを他の物質が被覆しているとすると、大陸から移流してくる場合、粒子の直径はBCの直径の1.6倍程度であることが観測されました。
被覆物質の主要成分は、エアロゾルの化学組成分析により主として硫酸塩や有機物と推定されました。
さらに、BCが硫酸塩などに被覆(内部混合)していると、BCの吸収は1.5倍程度大きくなることが計算から示されました。
このようにBCと硫酸塩や有機物が混合するとその光学特性が大きく変化することが、解析から明らかになりました。
2008年春季に沖縄でエアロゾルを捕集し、透析法により水溶性成分を取り除いた後で、電子顕微鏡を用いてBCの形態観察を行いました。
その結果によると、小さなBC粒子が凝集しており、数百nmの凝集体になっている様子が観察されました。
ここで、1nm(1ナノメータ)は1μmの千分の一の長さです。
凝集体の形態は球形や棒状など様々で直径500nm(=0.5μm)程度の大きさのBC凝集体も観測されました。
このようなBCの形状も光学特性に影響を及ぼすと考えられています。
2008年春季には沖縄において、雲になるエアロゾル(雲凝結核として作用するエアロゾル)の割合も測定しました。
エアロゾルの化学組成分析では、図1のように主成分は硫酸塩であり、質量濃度にして硫酸塩が約50-60%の割合を占めました。
また、カルボキシル基に対応するシグナルも強く出ており水溶性であることが示唆されました。
このような化学組成を持つ粒子に対して、過飽和度を変えてエアロゾルの個数に対する雲凝結核として作用するエアロゾルの個数の割合を測定しました。
過飽和度0.1%(相対湿度100.1%)ではエアロゾルの直径が130nmの粒子で約50%が雲凝結核として作用していました。
沖縄など遠隔地では直径が100-200nmのエアロゾルが多く観察されていますので、多くのエアロゾルが雲凝結核、すなわち雲を生成するエアロゾルとして作用すると考えられます。
最近では、東アジア域でも、実際の雲を対象とした航空機観測を行い、雲の下にあるエアロゾルの個数と雲粒の個数を測定し、エアロゾルと雲の相互関係を明らかにしようとしています。
気候変動シミュレーションに不確実性をもたらす鍵となっているのがエアロゾルです。
我々の観測結果に基づいて、エアロゾルの光学特性や雲凝結核としての特性が、エアロゾルの種類やその場の様々な条件に依存してどのように変化するかを解明することによって、気候変動のシミュレーションに適切なエアロゾルのモデルが導入され、より確度の高い将来予測が可能となると考えています。
(たかみ あきのり、地域環境研究センター
広域大気環境研究室長)