エアロゾルの化学組成とその気候変動への影響 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

・出展;国立環境研究所
http://www.nies.go.jp/index-j.html

・【研究ノート】
エアロゾルの化学組成とその気候変動への影響
高見 昭憲

エアロゾルは大気中を浮遊するマイクロメータサイズの粒子です。

1μm(1マイクロメータ)は1mmの千分の一の長さです。

おもなエアロゾルには硫酸塩、硝酸塩、有機エアロゾル、黒色炭素(Black Carbon; BC)など直径が1μm程度の微小粒子と、土壌粒子(黄砂)、海塩粒子など直径が数μm程度の粗大粒子があり、大気中を浮遊しています。工場や自動車あるいは砂漠や海などから直接放出されるBC、土壌粒子、海塩粒子などを一次粒子、大気中で化学反応により生成する硫酸塩、硝酸塩、二次有機エアロゾル(Secondary Organic Aerosol; SOA)などを二次粒子として区別しています。

二次粒子は二酸化硫黄、窒素酸化物、揮発性有機化合物など(これをエアロゾルの前駆体と呼ぶ)が大気中で酸化されて生成します。

大気中の物質がもたらす環境への影響には大きく分けて、健康影響、生態影響、気候影響の三つが考えられます。このうち、エアロゾルが気候変動に及ぼす影響としては、直接効果と間接効果の二種類があります。(以下の直接、間接効果の説明は「エアロゾル用語集」温暖化とエアロゾル、日本エアロゾル学会編、京都大学出版会、2004年を参考にしました。)

直接効果というのは、エアロゾルの光学特性、すなわち、エアロゾルがどの程度太陽の光を吸収あるいは散乱するかで地球の放射収支に影響を及ぼすことです。

硫酸塩や有機物のエアロゾルは透明でり光を散乱しますので大気も地表面も冷却します。

一方で、BCは黒色であり光を吸収しますので地表面に到達する太陽光は減りますが、大気自体は加熱します。

直接効果に対して間接効果もあります。

大気中で水蒸気しかない清浄な状態では水滴(雲)ができるためには相対湿度で400%という過大な飽和状態(過飽和状態)が必要です。

しかし、硫酸塩などのエアロゾルがあるところでは100%を少し超えるくらいの過飽和状態になると水滴(雲)が生成します。

これをエアロゾルが雲凝結核としての作用を持つと言います。

間接効果とは、エアロゾルがあることで雲の生成、分布、特性が変化し、その結果、雲の放射収支や降水のパターンが変化することで、間接的に気候への影響を及ぼすことです。

このようにエアロゾルは気候変動に大きな影響を及ぼすと考えられていますが、その影響の不確実性は大きいと考えられています。Intergovernmental Panel on Climate Change(IPCC)の2007年の報告書では二酸化炭素は1.66 Wm-2の正の放射強制力を持ち、その幅は1.49から1.83 Wm-2とされていますが、エアロゾルの直接効果は-0.5 Wm-2の負の放射強制力を持ち、その幅は-0.9から-0.1 Wm-2とされています。

エアロゾルの直接効果の数値の幅は二酸化炭素に比べて大きいです。

また科学的理解のレベルは二酸化炭素では高いですが、エアロゾルの直接効果は中くらいか低いと記載されています。

このようにエアロゾルは未だわからないことも多く、気候変動への影響を見積もるためには科学的な知見の集積が必要です。(放射強制力とは温室効果気体やエアロゾルの増加による放射への擾乱のことです。詳しくは、大気化学入門、D.J.ジェイコブ著、近藤豊訳、東京大学出版会、2002年、p.133を読んでください。)

エアロゾルの直接効果や間接効果にかかわる光学特性や雲凝結核としての作用は、エアロゾルの化学組成に依存すると考えられています。

たとえば、BCと硫酸塩粒子が混合し1個の粒子になった場合に、光吸収性と散乱性の物質を含みますので、その粒子の光学特性がどのようになるのかを解明することが、地球の放射収支を計算するために非常に重要です。また、粒子の中では硫酸塩や酸化された有機物の粒子は親水性と考えられ、雲凝結核として作用すると考えられます。

東アジア域では経済発展に伴い、二酸化硫黄、窒素酸化物、揮発性有機化合物などエアロゾルの前駆体となる物質が多く排出されています。

それら前駆体は大気中で光化学反応などにより酸化されエアロゾルになります。

冬から春にかけて大陸から日本に向かって季節風が吹きますので、その風下にあたる日本には大気汚染物質やエアロゾルが移流してきます。

黄砂はその代表的な例です。

国立環境研究所では、エアロゾルの輸送パターンや化学組成、粒子の変質と混合についての知見を得ることを目的に、長崎県や沖縄県でエアロゾルの化学組成分析を推進してきました。

図1に長崎と沖縄でエアロゾル質量分析計という装置で測定した、微小粒子の典型的な化学組成の例を示します。

長崎では硫酸塩、有機物、硝酸塩、アンモニウムイオンが観測され、沖縄では硫酸塩がより多く観測されています。