環境化学物質がアレルギーに及ぼす影響とメカニズムの解明にむけて2 | 化学物質過敏症 runのブログ

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◆フタル酸エステルが抗原提示細胞に与える影響

フタル酸エステルが,主要な抗原提示細胞である樹状細胞に及ぼす影響についてin vitro (試験管内)で検討を行いました。

樹状細胞は,アトピー素因を持つマウスの骨髄細胞を培養することにより,分化誘導しました。

この骨髄由来樹状細胞(BMDC)の培養液にフタル酸エステルを添加して培養した後,BMDCの成熟・活性化の指標となる液性タンパク質の産生や分子の発現,機能の変化を解析しました。

具体的には,ケモカインの産生やケモカインレセプターの発現,抗原提示に関わる細胞表面分子の発現や抗原特異的なT細胞増殖を誘導する抗原提示機能などが挙げられます。

結果として,DEHPとDINPは,in vitro において,これらBMDCの成熟・活性化の指標を増強することが分かりました。

図2は,DINPがBMDCの所属リンパ節への遊走に関わるケモカインレセプターであるCCR7とCXCR4の発現および,抗原提示に関わる細胞表面分子であるMHC class IIと補助刺激分子のCD86の発現を増強することを示しています。

図3は,DINPがBMDCのT細胞に対するダニ抗原特異的な抗原提示機能とTh2サイトカインであるインターロイキン(IL)-4の産生誘導能を増強することを示しています。

DINPの影響が100μMで弱まった原因としては,抗原提示機能を検討するための培養時間が長いことから,高濃度曝露群で細胞毒性が生じたためと考えられます。

DEHPとDINPは,BMDCの成熟・活性化を増強する作用に加え,骨髄細胞からBMDCを誘導する際に添加した場合,その分化を促進する作用があることも見いだしました。

さらに,DEHPとDINPの活性を比較してみると,DEHPは,BMDCの成熟・活性化よりも骨髄細胞からの分化の過程を促進する作用が強いのに対し,DINPはBMDCの分化・成熟・活性化いずれの過程も促進するという影響の違いも観察されました。

続いて,先に述べたマウスアトピー性皮膚炎モデルを用いて,DINPがin vivo (生体内)で免疫担当細胞に及ぼす影響を検討しました。

その結果,DINP曝露は,所属リンパ節における樹状細胞等の抗原提示細胞およびT細胞の数の増加と活性化を促進することがわかりました。

これより,in vitro で見いだしたフタル酸エステルの免疫担当細胞に与える影響は,in vivo の結果を反映していると考えられます。

また,フタル酸エステルによるアトピー性皮膚炎の悪化のメカニズムとして,抗原提示細胞の分化・成熟・活性化を介したTh2反応の促進が一部寄与している可能性が示されました。


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図2 DINPがBMDCの細胞表面分子の発現に及ぼす影響(拡大表示)
DINPは,BMDCのリンパ節への遊走に関わるケモカインレセプターであるCCR7 (a) とCXCR4 (b)の陽性細胞や抗原提示に関わるMHC class IIとCD86の二重陽性細胞(c) の割合を増加させることが分かりました。
*p < 0.05, **p < 0.01; DINP曝露群対非曝露群。


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図3 DINPがBMDCの抗原提示機能に及ぼす影響(拡大表示)
DINPに曝露したBMDCのダニ抗原特異的な抗原提示機能(a) とTh2サイトカインであるIL-4の産生誘導能(b) は,非曝露群に比べて増加することがわかりました。
*p < 0.05, **p < 0.01; DINP曝露群対非曝露群。

◆おわりに

フタル酸エステルは,抗原提示細胞の活性化を介してそれに続くT細胞をはじめとする免疫担当細胞の機能を促進することにより,アレルギー疾患を悪化させる可能性が示唆されました。

現在,様々な環境化学物質を対象として,免疫担当細胞に対する影響を中心に研究を進めていますが,物質によって反応性や作用点が異なることも分かりつつあります。

このin vitro における免疫担当細胞を用いた環境化学物質の影響評価は,影響メカニズムの解明のみならず,免疫・アレルギーに関する簡易・迅速な影響評価手法としても有用であると考えています。

今後は,免疫担当細胞と相互作用する上皮細胞,内皮細胞などに対する影響やそれらの複合的な影響も考慮し,環境化学物質による健康リスク低減のための施策に役立つ研究を進めていきたいと考えています。

(こいけ えいこ,環境健康研究領域
生体影響評価研究室主任研究員)