・出展;国立環境研究所
http://www.nies.go.jp/index-j.html
・【環境問題基礎知識】
化学物質の毒性試験と生態リスク評価
横溝 裕行
化学物質は人の生活に大きな恩恵をもたらしています。その一方で,人の健康を害したり,生態系に悪影響を与える可能性のあるものです。
そのため,化学物質を使用していく際には,化学物質が人の健康や生物に与える好ましくない影響の程度と可能性(リスク)を明らかにする必要があります。
従来から人の健康に対してリスクの評価が行われてきましたが,比較的近年になって生態系に対してどのような悪影響が,どの程度の大きさで起きるのかを知るための生態リスク評価が行われるようになってきました。
生態リスク評価を行うためには,環境中の生物がどのくらいの量の化学物質に暴露されるかを推定する暴露解析と,どれくらいの量の化学物質が,どれくらいの悪影響をもたらすかを推定する影響解析を行う必要があります。
化学物質の毒性の大きさを測定するために,動植物による毒性試験が行われます。経済協力開発機構(OECD)は化学物質の評価を行うためにテストガイドラインを作成し,試験生物や試験方法を示しています。
また,日本の環境省や米国環境保護庁(EPA)などによるガイドラインも作成されています。
毒性試験によって算定される,毒性の強さの指標には次のようなものがあります:(a)試験生物の半数が死亡する濃度である半数致死濃度(LC50:50% Lethal Concentration),(b)試験生物の半数に成長,遊泳,繁殖などに影響が出る濃度である半数影響濃度(EC50:50% Effective Concentration),(c)成長などに影響が出る最小の濃度である最小影響濃度(LOEC:Lowest Observed Effect Concentration),(d)試験生物に影響が出ない最大濃度である無影響濃度(NOEC:No Observed Effect Concentration)。半数致死濃度は,複数の異なる濃度の実験条件における試験生物の死亡率を,暴露濃度に対する回帰曲線を当てはめて,致死率が50%となる濃度として算定することができます(図を参照)。
半数致死濃度が低いほど,少ない化学物質でも半数の試験生物を死亡させる事になるので,毒性が強いことを意味します。
図 ある試験動物に対する毒性実験による半数致死濃度(LC50)の導出例
いくつかの濃度区に対して死亡率を毒性実験により求める。
回帰曲線を当てはめることにより,50%の試験生物が死ぬ化学物質の濃度,つまり半数致死濃度(LC50)を算定する。
この場合は,LC50=7.1μg/lである。
化学物質の生態リスク評価では,対象生物と,影響の評価項目(エンドポイント)を選択します。
そして,実際の化学物質の環境中の濃度(暴露濃度)を生物が影響を受ける濃度と比べることによりリスクの評価を行います。
しかし,利用可能なデータが限られることも多いため,リスク評価の手法は,利用できるデータの質と量に応じて選ばれます。
次に,その中のいくつかを紹介します。