・泣きっ面にハチ? 未熟さと化学物質曝露のタイミング
子どもに特異的な行動や食習慣も化学物質曝露の量や頻度を高める要因となります。
例えば子どもが手や物を口に入れるハンドトゥマウス/オブジェクト行動は1歳から3歳頃にかけて頻繁に見られます。
この行動は子どもの知覚の発達などに重要な意味を持つ一方で,土やハウスダストなどを介した化学物質曝露を生じさせます。
米国では1980年代に子どもの血中鉛濃度の上昇とそれによるIQ(知能指数)の低下が問題になりました。
この血中濃度の上昇には家屋に使用されていた有鉛塗料(1970年半ば頃まで広く使用されていた)の剥離片を,子どもが摂取したことが原因であることが明らかになりました。
当時複数の調査で,子どもの血中鉛濃度は2歳頃にピークを向かえ,以降は発生源を絶つなどの曝露予防を行わずとも濃度が低下するという結果が得られているのには驚きです。
米国では1990年以降,家屋の内外における有鉛塗料の塗装の劣化や磨耗面積,床面や土壌中の鉛濃度に対する基準を設けるなどの措置がとられた結果,1978年に血中鉛濃度の高い子どもは300~400万人程いましたが2002年には30万人にまで減少しました。
子どもの体内における化学物質の吸収や排泄,輸送の違いも脆弱性に寄与する要因として挙げられます。
成人の消化管における鉛の吸収率は10%程であるのに対し,1~2歳児の吸収量は50%程であることが分かっています。
このほか,乳児期は成人に比べて,化学物質の体外排泄率や,血清アルブミンとのタンパク結合が低いことが分かっており,体内における化学物質曝露に影響を与えている可能性があります。
化学物質の解毒機能の未熟さ
最近の研究では,子どもの体内における化学物質の代謝機能の未熟さが脆弱性に影響していることも明らかになってきています。
現在世界中で用いられている有機リン系殺虫剤の一部には脳の発達に影響を及ぼす作用があることが明らかになっています。
ファーロン博士らは,農業地域の妊婦とその新生児を対象に有機リン系殺虫剤の代謝能力の差異を調査した結果,有機リン系殺虫剤が体内で酸化されてできるオキソン体(毒性あり)を代謝する酵素の産生量は,生後まもなくの子どもでは母親の4分の1程度しかないことを報告しています。
図 子どもの化学物質に対する脆弱性の要因(発達と化学物質曝露
のタイミング)
筆者作図(環境省小児の環境保健に関する懇談会報告書にて公表)
(図を各拡大)
今後の展望
子どもの化学物質に対する脆弱性には以上のような複数の要因が重なって影響しているものと考えられていますが,この「脆弱な集団」を含めた集団のリスクをどのように評価すべきか,あるいはどのようにリスクを削減するかを議論していくには,さらなる知見の集積が求められます。
現在,環境リスク研究センターでは子どもの化学物質に対する曝露やヒトの感受性の要因に関する研究が行われています。
今後,子どもと成人の間にある,化学物質への曝露や感受性の量的あるいは質的な差異に関するより多くの知見が得られることを期待したいと思います。
(かわはら じゅんこ,環境リスク研究センターNIES特別研究員)
runより:この記事は非常に重要な事が書いてます。
解毒力が低下しているとどうなるか・・・化学物質過敏症になるだけではなくもっと過酷な状態になる事を示唆しています。
近々自筆で触れていきますね。