・出典:merckmanual
http://merckmanual.jp/mmpej/sec13/ch165/ch165e.html
薬物過敏症
薬物過敏症は薬物に対する免疫媒介性の反応である。
症状は軽度から重度まで様々であり,皮疹,アナフィラキシー,血清病を含む。
診断は臨床症状によるが,ときとして皮膚試験が有用である。
治療は,薬物投与の中止,抗ヒスタミン薬(対症療法),ときに脱感作による。
薬物過敏症は,その薬物および薬物相互作用による問題から想定されうる毒性および有害作用と鑑別されなければならない(薬物療法の概念: 薬物相互作用を参照 )。
病態生理
蛋白および大きいポリペプチドの薬物(例,インスリン,治療用抗体)には,抗体産生を直接刺激できるものがある。
しかしながらほとんどの薬物はハプテンとして作用し,主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子内に埋もれている蛋白を含めて,血清蛋白または細胞に結合した蛋白と共有結合する。
この結合によって蛋白は免疫原性をもつようになり,抗薬物抗体の産生,薬物に対するT細胞応答,またはその両方を刺激する。
ハプテンはクラスⅡMHC分子に直接結合することもあり,T細胞を直接活性化する。
プロハプテンは代謝に伴いハプテンとなる;例えば,ペニシリンそのものには抗原性がないが,その主要分解産物であるベンジルペニシリン酸は組織蛋白と結合でき,主要な抗原決定基であるベンジルペニシロイル(BPO)を形成する。
一部の薬物は直接T細胞受容体(TCR)に結合して刺激するが,この非ハプテン性のTCR結合の臨床的重要性は,明確にされつつある。
最初の感作はどのように起こるのか,また初期に先天性免疫がどう関与するのかについては不明であるが,いったん薬物が免疫応答を刺激すると,薬物群内および薬物群間で交差反応が起こることがある。
例えば,ペニシリン感受性の患者は半合成ペニシリン系(例,アモキシシリン,カルベニシリン,チカルシリン)に対して反応する可能性が極めて高く,約10%は同様のβラクタム構造を有するセファロスポリン系にも反応する。しかしながら,一部(例,スルホンアミド系抗生物質と非抗生物質の間)の見かけ上の交差反応は,特異的な免疫交差反応性ではなくアレルギー性反応を起こしやすい素因に起因している。
また,はっきりと認められる反応が全てアレルギー性というわけではなく,例えばアモキシシリンは,免疫を介さず,その後の薬物使用を妨げることのない発疹を引き起こす。
症状と徴候
症状と徴候は患者および薬物によって様々であり,1つの薬物が,異なる患者で異なった反応を引き起こしうる。
最も重篤なものはアナフィラキシーであり,発疹,じんま疹,および発熱が一般的である。一定の薬物反応はまれである。
他の独特な臨床症状がある。血清病は典型的には,暴露の7?10日後に起こり,発熱,関節痛,発疹を引き起こす。
機序には薬物-抗体複合体および補体活性化が関与する。明らかな関節炎,浮腫,胃腸症状を伴う患者もいる。
症状は自己限定性で,1?2週間続く。βラクタムおよびスルホンアミド系抗生物質,デキストラン鉄,カルバマゼピンが最も一般的に関与している。
抗体-薬物-赤血球間の相互作用が生じると,または薬物(例,メチルドパ)が赤血球膜を変性させて自己抗体産生を誘起する抗原が露出すると,溶血性貧血が発現することがある。
一部の薬物は肺疾患を誘発する(間質性肺疾患: 薬物誘発性肺疾患を参照 )。
尿細管間質性腎炎は最も一般的なアレルギー性腎反応であり(尿細管間質性疾患: 尿細管間質性腎炎を参照 ),メチシリン,抗菌薬,シメチジンが一般的に関与している。
ヒドララジンおよびプロカインアミドはSLE様症候群を引き起こすことがある。
この症候群は比較的良性で,腎および中枢神経系に障害を起こさず,抗核抗体試験は陽性である。
ペニシラミンはSLEおよび他の自己免疫疾患(例,重症筋無力症)を引き起こすことがある。