・人間での研究
鉛は胎盤を容易に通り、胎児の脳に入り、そこで正常な発達を妨害する。胎児あるいは乳児の鉛被ばくによる、知能低下や多動性・学習と注意の障害・行動の変化などの神経発達への悪影響を、多くの研究が報告している(例えば文献123 を見よ)。
ここでは比較的豊富な人間のデータがあるため、動物での大量の研究をほとんど省略して、幾つかの大規模疫学研究結果を要約する。
1940 年代、学業低下や衝動行動・短い注意集中期間・落ち着きのなさなどの鉛中毒の結果が報告された4。
その時以来、低い被ばくレベルでの神経発達障害が良く実証されてきた。事実、早期の被ばくによる鉛が誘導する認識障害に何らかの閾値があるという証拠はない。5
知能に対する鉛の影響に関する最も初期の研究の 1 つで、抜け落ちた歯の鉛レベルが最も高い子供と最も低い子供との間に、子供用のウェックスラー知能尺度(改訂 WISC-R)によって測定した IQ で 4 点の差があることを研究者が報告した6。
ほかの研究も同じ結論に達した。
ボストンで、中産階級と中産階級上部の家庭の子供集団を長年追跡した。7,8
ベイレイ知能発達インデックス Bayley MentalDevelopment Index (MDI) での成績低下は、高い臍帯血鉛レベルと関連があった。
高血中鉛レベル(平均 14.6 μ g/dl)と低レベル(平均1.8 μg/dl)との間の得点差は、生後6、12、24か月で、4-7 点あった。
子供を 10 才で再検査したとき、生後 24 か月の時の血中鉛 10 μg/dl 増加は WISC-R で測定した IQ で 5.8 点の低下に関連していた。9
ボストンの集団で、教師は鉛レベルと相関する子供の行動変化を報告した。
高レベルの子供は注意散漫で、依存性が強く、衝動的で、容易に挫折し、ねばり強くなく、指示に従うことができない。注意欠陥障害も毛髪鉛レベルと相関する。10
乳児と幼い子供で毛髪中レベル増加は、成長した子供や青年期に注意集中期間の減少や読字障害、高校卒業ができないこととして現れる11。
2 つの研究が、鉛被ばくが攻撃や破壊・非行行動と関連することを報告している12,13。
動物の研究
動物の研究は疫学データの結論を支持している。生まれた時から鉛に被ばくし、血中鉛レベルが約 15 μg/dl に保たれたサルは、注意散漫及び刺激に対する不適切な応答、応答を調節する困難を示した。14
動物研究のレビューは、低レベルの鉛被ばくに関連する成績や学習・注意の欠陥を報告している。
神経毒性のメカニズム
幾つかの神経発達過程は鉛被ばくにより変えられ、異常な脳の発達を導く。
鉛の子宮内神経発達影響は、脳の細胞構造とその化学的性質の両方に影響を及ぼす。16
構造的影響には、細胞増殖や分化・シナプス形成・計画的細胞死がある。神経化学的影響には、脳の様々な場所での神経伝達物質(アセチルコリン・ドーパミン・グルタミン酸)レベルの変化及び、ドーパミン受容体密度の変化がある。17
鉛は NMDA(グルタミン酸)受容体の強力な阻害剤でもある。胎児の脳は、特有の組織化が進行中であるという理由ばかりでなく、血液脳関門が未熟なために特に敏感である。
ある研究は、ラットで生後より妊娠中に胎児の脳の鉛取り込みが多いことを発見した18。