・別の遺伝的に決定されている酵素は、個人の有機リン毒性に対する感受性をさらに修飾する。血中に見られるこの酵素パラオクソナーゼは、幾つかの有機リン農薬の解毒で重要な役割を果たす。34、35
例えば、人間には、持っているこの酵素の遺伝子により、農薬パラチオンの活性をなくす能力に11倍の変化がある。
マウスの研究は、低レベルのパラオクソナーゼは、米国住民が幅広く被ばくしている農薬、クロルピリホス(ダーズバン)に対する感受性を増加させることを示している。35,36
このように、高いパラオクソナーゼ活性は、有機リン影響に対する第一防御線として働く。
しかし、人口の 30-38%と推定されるパラオクソナーゼの相対的に不活性な種類を持つ人は、これらの有機リンを分解するのが遅く、結果としてアセチルコリンエステラーゼ阻害に対して一層脆弱であろう。
加えて、遺伝あるいは環境要因により、個人のアセチルコリンエステラーゼが低レベルであれば、この人は有機リン農薬によるアセチルコリンエステラーゼ阻害にさらに感受性を増すだろう。
このように、動物研究で証明されたように一部の人が良く耐える有機リン被ばくレベルは、遺伝や年齢・環境要因の複雑な混じり合いによりさらに脆弱な人で脳発達と行動に永続的な変化を起こすであろう。
脆弱性の個人差は科学者によって広く認識されているが、規制当局によって非常に過小評価されているだろう。
化学物質規制で、例えば、EPA は大人と子供との差を含む化学物質に対する感受性で、人間の既知と未知の様性に関して計上する標準的な10 倍の不確実係数を用いている。
しかし、先に考察したようにパラオクソナーゼ活性だけで11 倍まで変化する。
多様性がまだはっきりしていない有機リン毒性を媒介する 4 種類の別の酵素があるので、有機リンに対する個人差は、規制当局が現在認識している 10 倍の変化より数桁の大きさであろう。
特定の化学物質に関する特定の研究が脆弱性の大きな差を実証するために行われた後にのみ、規制当局は標準的な習慣よりもより防護的である政策実施を考慮するだろう。
残念ながら「事実の後」の規制は、脆弱性を作り出す複雑な相互作用を解明するために必要な時間、世代を傷つけるのを認めてしまう。
例2:溶連菌感染症に伴う小児自己免疫性
神経精神障害「PANDAS」における遺伝子・環境相互作用遺伝子・環境相互作用の別の重要な領域は、感染に対する抗体反応を含む。
この相互作用の一例は、幾つかの神経精神障害を持つ患者のサブセットで最近認識されている。
A 群連鎖球菌(連鎖球菌性咽頭炎の原因)感染後に顕著に症状が悪化したこれらの患者は、PANDAS であると考えられる。
連鎖球菌感染後の悪化は、常同情動行動が目立った特徴である幾つかの障害で起こることが知られている。
これには、神経精神症候群である強迫障害(ODC)と 2 種類の不随運動障害であるチックとトーレット症候群が含まれる。39,40
連鎖球菌感染後の悪化は自閉症の子供では証明されていないが、限られた免疫学的データは、多くの自閉症の子供は連鎖球菌感染後の免疫反応に同じ遺伝的脆弱性を持つことを示している41。
PANDAS の臨床的意味はまだ明らかではない。
しかし、幾つかの系統の証拠は、PANDAS は妥当な診断構成概念であり 、 4 2PANDAS は独特の遺伝子・環境相互作用の結果生じるというできつつある合意を支持している。
ある系統の証拠には一連の免疫学的研究がある。
これらの研究で、PANDAS の患者は血中に免疫マーカー(D8/17 抗原を持つ Bリンパ球)を持っていることが示されており、連鎖球菌感染に続くことがある深刻な炎症疾患であるリウマチ熱に対する感受性のマーカーとして、そのマーカーは以前突きとめられていた。
リウマチ熱で OCD と不随運動障害の高い発生率は、連鎖球菌感染と神経精神疾患とのつながりを支持する第二の臨床的証拠系統である43,44。
また、PANDAS 構成概念に対する限られた神経画像の支持がある。OCD の連鎖球菌感染後の悪化と一致する脳(基底核)の特定の領域で急性拡大を明らかにした一連の磁気共鳴映像(MRI)の報告によって、これは提供されている45。
最後にこの構成概念は、免疫反応を減らす治療(血漿交換と静脈内免疫グロブリン)は連鎖球菌感染後 OCD とトーレット症候群・チック障害の子供で症状の重さを減らすのに有効であることを示した、最近の国立衛生研究所の研究によって支持されている46。
自己免疫機構は、遺伝的に脆弱な子供で重要な脳構造(基底核)と交差反応する連鎖球菌の抗体によりPANDAS が起こることを示すことが提案されている。47,48,49,50,51
この提案されたメカニズムは、PANDAS 症候群の臨床的重要性と同様に、感染・免疫学的・神経精神的出来事と結果を追跡する大規模なの、より包括的で前向き研究によってさらに解明する必要があるだろう。