・出展:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
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NEWS LETTER Vol.74
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ペルメトリンの入らない、普通の蚊帳の普及によるマラリア対策への転換を!
会員・元国際基督教大学教授 田坂 興亜
アフリカを中心とするマラリア多発地域で、特に子どもや妊婦をマラリアから守るというユニセフの活動に、住友化学が開発したピレスロイド系農薬入りの蚊帳の普及という形で日本政府がかかわり始めたのは、小泉純一郎首相のときであった。
この農薬入りの蚊帳が品川の日本ユニセフ連盟支部でお披露目されたときに、住友化学の社長は、次の二点を特に強調した(2009年6月発行の国民会議ニュースレター Vol.57参照)。
一つは、この農薬入りの蚊帳は、普通の蚊帳より穴が大きくしてあり、その穴を通過して蚊帳の中に入ってくるときに、必ず蚊が蚊帳の繊維にとまるので、その際、蚊帳の繊維に塗りこまれている殺虫剤が蚊の体内に侵入して、蚊を殺すのだという点である。
第二に、使用されているピレスロイド系の殺虫剤は、天然のピレスロイドと類似した構造で、人畜に対する毒性が極めて低い、ということであった。
しかし、2011年のWHO;World Malaria Reportによると、日本政府が多額の国費を投入して普及させてきた農薬入りの蚊帳が使用されているアフリカのほとんどの国々で、ピレスロイド系殺虫剤に対して抵抗性を持つ蚊が見つかっている。
このことは、蚊帳の網目を大きくしてあるオリセットネットが、蚊が通過できない普通の蚊帳に比べて、マラリアから人々を守ることができなくなってきていることを示している。
セネガルの首都ダカールにあるフランスの研究機関(IRD)の研究者の調査によると、マラリア患者数は、農薬蚊帳を導入した2008年8月~2010年8月までは導入前の8%に激減したが、2010年9月~12月の間に急増し、導入前の84%になったという。
また、ピレスロイド系殺虫剤に耐性を持つハマダラ蚊の比率が2007年には8%であったのに対して、2010年の末には48%になっていた、と報告している。(Jean-Francois Trape et al., Lanset,August 18, 2011.)
ピレスロイド系農薬の安全性に関しても、次頁に寄稿されている曽根秀子先生を含めて、黒田洋一郎先生、富山医科薬科大学の研究者らによって、ペルメトリン等の合成ピレスロイドが子どもの脳の発達を阻害するという研究結果が最近相次いで報告されている。
第二次大戦以降、次々と登場したDDT、BHCなどの有機塩素系農薬、パラチオン、スミチオン、マラチオンなどの有機リン系農薬、ピレスロイド系農薬などの殺虫剤に対して次々と抵抗性を身につけてきた害虫たちは、マラリア対策でのこれらの殺虫剤の効果を失わせてしまった。
WHOのWorld Malaria Report(p.30)は、「2009年以降、マラリア対策にピレスロイドを用いない傾向にある」と報告しているが、ピレスロイド系殺虫剤に対して抵抗性を持つ蚊の出現によって、次はどのような殺虫剤が使われることになるのであろうか?
DDTが効力を失ったらスミチオンを使い、さらにピレスロイドにと、「もぐらたたき」のように次々と新たな農薬が使われてきた歴史を考えると、次は「ネオニコチノイドの出番」という可能性がある。
しかし、ネオニコチノイドは、ミツバチへの悪影響からEUなどでは禁止になりつつあり、また、アジアの稲作地帯ではすでに、ネオニコチノイドに抵抗性を持つイネウンカが現われ始めている。
こうした「いたちごっこ」に終止符を打つためにも、農薬の入らない普通の蚊帳の普及によってマラリアから人々を守る、という方向への大きな政策転換が直ちになされるべきである。
runより:以前この蚊帳の問題を掲載した時には「人体実験では?」とまで言われた殺虫剤入りの蚊帳です。
今ある殺虫剤や虫よけなどは元々軍事目的で作られた物も多くあります。