日弁連:電磁波問題に関する意見書9 | 化学物質過敏症 runのブログ

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(2) 先進的な取組を行う国々
① EUの決議等
さらに海外に目を向けると,特にヨーロッパを中心に,電磁波施設につい
ての情報開示や手続保障を重要視し始めている。
例えば,前述の2009年4月の欧州議会決議で採択されたリエス報告で
は,以下のことが要求されている。
まず,情報開示については,欧州議会加盟国に対して,高圧電線や通信用
の鉄塔などから発生する電磁波による曝露を示す地図を作成し,それに対しインターネットを通じて住民がアクセスできるようにすることを要求してい
る。
また,手続保障については,新しい電磁波施設を設置する場合には,企業
の関係者や行政組織などに加えて,住民組織も参加する協議に基づいて解決すること,そして,電磁波施設を学校や老人施設,保健施設の近くには設置しないように協議をすることが求められている。
さらに,前述の欧州評議会議員会議の採択文書でも,「新しいGSM,UM
TS,WiFi,WIMAXアンテナの位置を,単に事業者の関心に従うだけでなく,地方や地域政府の担当者,地域住民,懸念する市民の団体と相談して決めること。」が勧告されている。
このように欧州では,規制を厳しくするのみではなく,電磁波施設に関す
る情報開示,手続保障も重要視されてきているのである。

② スイスの取組について
また,スイスにおいては,次のように,携帯電話中継基地局を建設する際
に,極めて丁寧な情報開示,手続保障がなされている。
スイスにおいては,事業者は中継基地局を建設する際に,公的機関に対し,中継基地局の仕様と複数の地点における電磁波の強度を計算した書類を役所に提出した上で,看板などで周辺住民に設置することを周知させなければならない。
それに対して,建設予定地の周辺住民には異議申立てができ,役所への異議申立てが受け入れられなかった場合には,その後に不服審査や,行政訴訟に移行することができる,といった手続が保障されている。

さらに,事業者は,公的機関に提出した上記書類をそのまま保管しており,
住民の閲覧が可能であるため,自分が住む場所,住む予定の場所の周辺に,どの程度の規模の中継基地局が存在するのか,そこからどの程度の強度の電磁波が出ているのかを知ることができるようになっている。
このようにスイスにおいては,携帯電話中継基地局に関し,丁寧な情報開
示と,建設に対し異議を申し立てる手続が保障されている。
また,スイスでは,携帯電話中継基地局のような固定施設だけでなく,携
帯電話,電化製品など,電磁波を発生させる製品に関しても,インターネッ
トを通じて注意を促している。

(3) 情報開示・手続保障を検討するべきであること
既に述べたように,住民が電磁波の健康被害を不安に思うだけの,研究結果や勧告などが存在している。

そうであれば,どの程度の電磁波を浴びて生活するかどうかについては,住民にとって極めて重要な意思決定となる。

それにもかかわらず,現在の我が国では,自分が居住する地域のどこに電磁波施設が存在するのか,また,新たな電磁波施設の建設の予定があるのかについて,適切な情報が得られない状況にある。

このままでは,住民にとって,重要な意思決定をする前提としての情報がなく,意思決定のしようがない。したがって,住民に対しては,電磁波施設に関する情報公開の制度を設けるべきである。
また,電磁波施設に関する情報を基に,電磁波施設から比較的離れた場所で居住していたとしても,自分の住居の周辺に電磁波施設が建設されようとする場合に意見を述べる機会がなければ,電磁波施設から離れた場所での居住を選んだ意思決定が意味を持たない。

したがって,新たに電磁波施設を建設しようとする場合には,事業者が周辺住民に対して十分な説明をした上で,住民と協議し,建設するかどうかを決定する制度の実現を図るべきである。

4 規制官庁の問題(「第1 意見の趣旨」1(1))
以上,述べてきたような電磁波に関する日本の法規制に問題がある根本的な原因として,電磁波に関する規制を行っているのが,総務省,経済産業省といった,電波,電力の利用を推進する側の官庁が行っているということが挙げられる。
前述のとおり,電磁波に関しては,人体への健康影響が懸念されている公害としての問題なのであるから,本来,公害を防止し,環境を保全するための環境省や,公衆や労働者の健康を維持するための厚生労働省といった官庁が所管すべきであるにもかかわらず,これまで電波,電力の利用を推進する側の官庁が規制を行っていたことが問題である。

そのため,電磁波に関する規制は,電磁波の健康影響を懸念する市民からの賛同は得ていなかった。
したがって,電磁波に関する規制を検討する組織は,総務省や経済産業省等の電波,電力業界を所管する省庁からは独立した組織として設置することが望ましい。
さらにその組織は,公正さに配慮して,電磁波の健康影響につき見解を異にする様々な立場の構成員で組織されるべきであるし,構成員については関連企業からの研究資金の援助や寄付などの利益供与の有無及び内容を明らかにするべきである。

また,市民が感じている懸念を真摯に受け止めるためには,電磁波による被害を訴える市民団体のメンバーなども構成員とする必要があるといえる。