・3 電磁波を発生させる施設建設に関する情報開示・手続保障の必要性(「第1 意見の趣旨1(3))
(1) 日本の現状
① 国としての規制がないこと
現在,我が国の法律や規則レベルでは,電磁波を発生させる施設(以下「電
磁波施設」という。)を建設する際に,建設予定地周辺の住民に対する情報開示や,周辺住民による建設に対する異議申立ての特別な手続は制定されていない。
あくまで一般の建造物と同様に,建築基準法その他の規制により必要とされる手続が必要なだけである。
そのため周辺住民にとっては,新たに電磁波施設が設置されることや,自
分が住む地域のどこに電磁波施設があるのか,自分の家にはどの程度の強度の電磁波を浴びているのかを知る適切な手段がない。
② 条例等の制定
この点,地方自治体の条例レベルでは,電磁波施設に関し,住民に対する
情報開示・手続保障を要求しているものも存在している。
例えば,鎌倉市携帯電話等中継基地局の設置等に関する条例では,第4条において事業者が携帯電話等中継基地局を設置する場合には,周辺住民や,学校,児童福祉施設等の管理者の意見聴取などを義務付けている。さらに同条例では,第6条において事業者に工事の計画書を市長に提出すること,第7条で計画書を提出後,周辺住民に工事の概要を説明することを定めている。
このように同条例では,事業者が携帯電話中継基地局を設置する場合に,周辺住民に対する情報開示と,周辺住民が意見を述べる機会を設けることを事業者に義務付けているのである。
他にも福岡県の篠栗町,岩手県の滝沢村等が,条例によって電磁波による
健康被害の不安を指摘した上で,携帯電話中継基地局設置の際の情報開示と手続保障を定めている。
また,条例で定める以外にも,福島県いわき市等のように要綱で情報開示
や手続保障を定めている自治体や,奈良県の斑鳩町のように政府に対し,電波基地局設置に周辺地域住民への説明と合意を義務付けることを求める意見書を提出している自治体も存在している。
このように,我が国では,国レベルでの電磁波施設の情報開示や手続保障
に関する規制はないものの,地方自治体では既に情報開示や手続保障を要求しているところは存在している。
③ リスクコミュニケーションについて
さらに国レベルでも,情報開示・手続保障の重要性は認識されているとい
える。
経済産業省の原子力安全・保安部会電力安全小委員会電力設備電磁界対策ワーキンググループが2008年6月付けで取りまとめた報告書において,
①リスクコミュニケーションがニーズに合致した形で行われているかが疑問視されていること,
②双方向のやりとりをきめ細かく行い,不安や疑問を持つ人々との信頼感の構築を目指すことが必要とされていること,
③科学的な根拠は見出せないものの,近隣住民等の心情に配慮して,住民との合意形成に格別の努力を払うべき,などが指摘されている。
科学的に不明確であるということは,不明確であるがゆえに,その部分を
規制するかしないか,規制するとして何をどの程度規制するのかという点に
おいて,本質的には複数の選択があり得ることになるはずである。
そうした
複数の選択肢において,それぞれ異なる考え方が双方向で協議し,信頼関係に基づいた合意を形成していくということこそ,真のリスクコミュニケーシ
ョンの姿であろう。
また,協議と合意形成が信頼関係に基づいて行われるためには,正確な実態調査と情報公開が前提となることはいうまでもない。