・●ごく微量のPCBやダイオキシンが原因
前述の野生生物の生殖異常とヒトの精子の減少は、すでに地球全域を汚染してしまった有機塩素系化合物のPCB(ポリ塩化ビフェニル)やダイオキシンによるものではないかとコルボーンらは疑っている。
有機塩素系化合物とは、炭素と水素からなる有機化合物の化学構造の中に塩素がはいりこんだものである。彼女らがあげた状況証拠のいくつかを紹介しよう。
米国では、PCBによる汚染度の高い水域の魚を摂取した女性から生まれた子どもたちに対し、いくつかの研究室が調査をおこなった。
それによると、その子どもたちは周囲に慣れる能力にとぼしく、行動と神経系にも障害が認められた。
1970年代に、ミズーリ州の室内競馬場にダイオキシンをふくむ廃油が砂ぼこり止めに散布された。
その結果、62頭の馬が死亡し、競馬場のオーナーとその二人の子どもにインフルエンザのような症状があらわれた。
ベトナムからの帰還兵とその家族に、ガンから子どもの身体障害にいたるまでの種々の疾病があらわれた。
台湾において1979年に、PCBとダイオキシンに汚染された食用油が販売された。
それを摂取した女性から生まれた128人の子どもに対し、1985年から92年にわたって調査がおこなわれた。その調査結果は、この子どもらの運動能力、知的能力、神経系などに障害のあることを示した。
また、曝露経験のない同年齢の子どもにくらべてペニスが異常に小さかった。
動きまわる多動症のような行動障害も認められた。
1988年にウィスコンシン大学のピーターソンらは、妊娠中のラットにごく微量のダイオキシンを投与したところ、生まれたオスのラットの生殖系に長期にわたって異常が発生した。
とくに、性決定プロセスの中でとりわけ重要な妊娠15日目のラットにごく少量のダイオキシンをあたえたところ、その母親から生まれたオスのラットの精子数は、ダイオキシン曝露を受けていない親から生まれたオスのラットの精子数より56パーセントも少なかった。
コルボーンらはこれら以外にも多くの観察結果を紹介している。たとえば、PCBは甲状腺ホルモンにも悪影響をおよぼすという。
彼女らは、結論としてダイオキシンやPCBが危険なのは発ガン性のためだけでなく、子どもの生育と、生殖にも有害なためだと強調している。