・出展:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
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・植物生態学から見た松枯れの位置づけ
筑波大学名誉教授 林 一 六
松枯れはなぜ起こるのか
松枯れが起こる理由には、次の三つの説があります。
一つは、マツ枯れはマツノマダラカミキリに寄生するマツノザイセンチュウが引き起こす、二つ目は、大気汚染などの環境変化によってマツが枯れる、三つ目は、私の説ですが、植物群落の遷移によって起こる、というものです。
マツ林の特性
マツ枯れはマツの林で起きますが、マツ林には、次のような特性があります。
①マツ林の林床にマツの若木は生育できない。
②そのかわり、ナラ(コナラ、ミズナラ)の若木が生育していて林内で生育できる。
③自然条件下ではマツ林からミズナラ林に移り変わる。
(群落遷移)
つまり、マツ林は、上の①、②の特徴があるので、放置しておけば、マツ林はナラ林に移り変わる(遷移)という自然の規則性に従います。
どうしてナラの林に遷移するかというと、カケスという鳥が、冬に食べるためにドングリを運んできて、マツ林の林床に埋めるという習性を持っているからです。
カケスが食べ残したドングリはマツの林の中で発芽し、ナラが芽生えてきます。
ナラはマツの木の下で成長し、およそ20年でマツを超え、ナラの林になっていきます。
遷移が起こる仕組みを確かめるために、20メートル四方のアカマツの実験林で1本1本の木の直径を27年間測定しました。
アカマツの木が成長し直径が太くなっていくと、木と木の間に競争が起こり、成長の遅れた木は枯死し、20年の間に木の数はおよそ250本から50本まで減ります。
こうして木の枯死などの生物の死はお互いの競争でも起こります。枯死木の直径の毎年の変化を見ると、枯れ方にも規則性があることが分かります。
木が小さい頃は気がつかないのですが、成長が進んで直径16センチもの太さのマツが枯れると、私たちも枯れたことに気づくようになります。
そしてそれをマツノマダラカミキリのせいにし薬剤を撒くようになるのです。
しかし、この昆虫をマツ林の中で実際に見かけるのは稀です。
そういうわけで、少なくともこの昆虫がアカマツ林の中にいることを確かめてから薬剤を散布する必要があるでしょう。
マツ林の再生
マツ林からナラ林への変化は自然の営みの一つの現象なので、農薬では止めることができません。
それでは、マツ枯れにどう対処したらいいのでしょうか。
まず、次のことを検討することから始めることが必要だと思います。
すなわち:マツ枯れが起こっている場所が是非、マツ林でなければならないか、他の樹種の林でもいいか、を検討します。
もし、この場所がどうしてもマツ林でなければならないと判断されたら、その場所の表土を剥ぎ、B層を露出させます。
そうすると、多くの場合その場所にはマツの若木が自然に侵入してきて定着します。
そうならなかった場合は植林を行うのが良いでしょう。
その場所がマツでなく他の樹種でも良い場合はそのまま遷移を進ませて、ナラの林として利用するのがいいでしょう。