・黒田氏は、ネオニコチノイドがラット神経細胞のアセチルコリン受容体に結合することにより、カルシウムの流入が起こり、神経細胞の興奮を引き起こすプロセスを説明され、ニコチンとイミダクロプリドが両方とも極めて低い濃度でラット小脳神経細胞を興奮させるという実験結果を、視覚的に光って見える映像を用いて示された。
私たち、この講演を聴いていた者も、この見事な映像に、画面の神経細胞と同じように「興奮」したのであった! また、代表的ネオニコチノイドであるアセタミプリド、イミダクロプリドの反応性が、予想よりニコチンに近いことをデータで示された。
こうした説明のあと、黒田氏は2011年に発表されたばかりの文献を引用して、イミダクロプリドやクロチアニジンがヒトのニコチン性受容体を刺激して神経興奮を起こし、さらに本来の神経伝達物質であるアセチルコリンとの働きを、イミダクロプリドは抑制し、クロチアニジン増強するという具合に、ネオニコチノイドがヒトの正常な神経活動をかく乱する可能性があることを、紹介された。
最後にまとめとして、ネオニコチノイドのヒトの脳への影響として、黒田氏は、次のようなことを列挙された。
①ヒト・ニコチン性受容体に「ニセ」神経伝達物質として働く
②ネオニコチノイドは、脳内に入りやすく、残留しやすい。
③ネオニコチノイド代謝物は、より毒性が高いニコチン類似物質になる可能性がある。
④発達期の子どもの脳への影響は、より低濃度で、アセチルコリン情報がOFFになっていなければならないときにONの状態にするため、正常な神経回路の形成を阻害する。
そして、以上のようなヒトの脳への悪影響は、有機リン農薬でも起こることを考えると、ネオニコチノイドはダメだから、有機リンに戻すというようなことでは全く解決にならないことを指摘された。
このことは、ネオニコチノイド及び類似した性質の農薬の使用禁止や、残留基準をもっと厳しくすべきだと行政に働きかける私たちの運動が、いわゆる「もぐらたたき」に終わってはならないことを強く感じさせた。
今回のシンポジウムでは、イギリスとドイツから招かれた養蜂協会の講演者が、ミツバチに対するネオニコチノイドの影響と、それぞれの国での因果関係をめぐる議論、ネオニコチノイドに対する規制などについて話されたが、ヒトの脳に対する重大な影響について黒田氏が講演されたことで、ネオニコチノイド系農薬の問題をより広く、深く学ぶことができたと思う。
海外からの講演者も、黒田氏が講演する際に用いられたパワーポイントの研究データをしきりにカメラに収めておられたし、様々な形で、情報の共有ができたと思う。
(報告:運営委員・田坂 興亜)