出展:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
http://kokumin-kaigi.org/
・環境化学物質と子どもの脳の発達障害
講演4
報告1
ネオニコチノイド系農薬国際市民セミナー
黒田洋一郎先生
(脳神経学者、元東京都神経科学研究所)
ネオニコチノイド・有機リン農業の危険性
「 環境化学物質と子どもの脳の発達障害―ネオニコチノイド、有機リン農薬の危険性―」と題する黒田洋一郎氏の講演は、最新の研究成果をヴィジュアルに取り入れた大変興味深いものであった。
黒田氏はまず、歴史的考察から始められた。
特に、胎児性水俣病の事例を取り上げ、妊婦の胎盤を通過して侵入した有機水銀が胎児の脳を犯し、重篤な脳神経系の障害をもたらした状況を丁寧に考察してみると、1970年頃から米国で、そして、1990年頃から日本で顕著になった自閉症、注意欠陥多動性障害(ADHD)など、発達障害児の増加、子育て本能が阻害されて、子どもを虐待する親の増加などが、社会的な要因だけでなく、人工的化学物質によって引き起こされている可能性が高いことを指摘された。
脳神経系に作用する化学物質は、脳の一部に損傷を与え、そこが担う行動だけに異常をもたらし、他の行動では正常という場合もよくある。
そうした影響を与える化学物質のひとつとして、有機リン系農薬があり、子どもの発達障害や知能低下と農薬との関連を示す研究論文が最近多く現れている。
特に、低濃度であっても、有機リン農薬を摂取した子どもは、ADHDになりやすことを示す報告もなされている。
そして、胎児、乳児の脳は、外部から侵入する有害物質をブロックする「血液脳関門」が未発達なため、化学物質が脳のなかに侵入しやすい。
このことは、1990年代から使用が始まったネオニコチノイド系農薬についても、まさに当てはまるわけで、神経伝達物質アセチルコリンの代わりに、アセチルコリン受容体にくっついて、ニセの神経情報を継続的に発してしまうネオニコチノイドは、発達途上の胎児、乳児の脳に、タバコに含まれる毒物ニコチンと同様の悪影響を与えてしまう。
タバコの箱には、「妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産の原因の一つとなります。疫学的な統計によると、たばこを喫う妊婦は喫わない妊婦に比べ、低出生体重の危険が約2倍、早産の危険性が約3倍高くなります」と表示してあり、実際に妊娠中に喫煙すると、子どものADHDのリスクが高まることが報告されている。
タバコの有毒成分ニコチンと類似した化学構造、性質のネオニコチノイドが体内に入れば、同様の危険性があることを黒田氏は警告された。
ヒトのニコチン性アセチルコリン受容体は脳に多く存在しているが、そのほか、中枢神経や末梢神経にも広く分布しており、ネオニコチノイドが人体に入るとアセチルコリン受容体に結合し、ニセものの「神経伝達物質」として神経情報伝達をONにしてしまう。
特に、発達過程にある脳ではOFFの状態がその部分の正常神経回路の発達に必須であるのに、極めて低濃度であっても有機リンやネオニコチノイドが入ってくるとONの状態にして異常を引き起こす。
また、ネオニコチノイドはその代謝物がより強い毒性を示す場合があり、ネオニコチノイドだけでなく、その代謝物にも注意を払う必要がある。