・生化学的影響
・ ジエチルトルアミドはアンモニアから尿素の合成と乳酸からブドウ糖の合成を阻害する。[22]
代謝
・ 皮膚投与後にジエチルトルアミドの分布をオートラジオグラフ法によってマウスで調べた。
投与後初期には高濃度に涙腺や肝臓、胆汁、腸内容物、腎臓、尿、鼻粘膜に見られた。
マウスの尿中への排出は投与直後最も高かったが、人間のボランティアでは数時間後にのみ現れた。
マウスでは少ないが、有意な排泄が1か月後も続いていた。[23]
他の化学物質との相互作用(湾岸戦争症候群に関連して)
ペルシャ湾岸戦争後、帰還兵に原因不明の、疲労や記憶低下・関節痛を訴えた。
その人数は数千人から数万人といわれている。
一時は劣化ウラン弾が原因とされたが、現在は化学物質の複合的影響にも注意が集まっている。
その中でもそれ自体では深刻な影響を与えないとされてきたディートの作用に関心が向けられている。
・ ディートや臭化ピリドスチグミンの単独投与では脳のコリンエステラーゼ活性を低下させないが、同時に投与すると脳のコリンエステラーゼ活性を低下させる。 [24]
・ 雌雄のラットに神経ガス防護剤である臭化ピリドスチグミンあるいはペルメトリン、ディートを7日間くり返し投与した後、行動の試験をした。単一の薬物を投与した後に影響は現れなかった。
雄で臭化ピリドスチグミンとディートを投与すると運動が有意に遅くなった。雄でディートとペルメトリンを投与すると運動が有意に速くなった。
雌で臭化ピリドスチグミンとディートを投与すると、運動が有意に遅くなった。
雌で臭化ピリドスチグミンとペルメトリンを投与すると中心にいる時間が有意にのびた。三剤を同時に投与すると有意な影響は現れない。
これらはニワトリと昆虫での行動研究と比較するとある種の類似性を持つ。この持続する影響は人間の湾岸戦争症候群に匹敵する動物モデルである。[25]
・ 湾岸戦争では75万人の従軍兵の中で約3万人が原因不明の神経症状を訴えている。
このような症状が現れたのは従軍兵を守るために使用した複数の薬剤被ばくの影響と考えられる。
ニワトリにディートや臭化ピリドスチグミン、ペルメトリンを、個々にあるいは組み合わせて投与した。
一種類の化学物質を投与したより、2種類を組み合わせて投与すると影響が大きく現れる。
3種の物質を同時に投与すると、さらに影響が強められる。
また、血漿中エステラーゼ活性が低いことはある種の化学物質混合物により神経障害を受ける素因であろう。[26]
・ ディートが他の化学物質の影響を強めることは、同様にクロルピリホスとディート、臭化ピリドスチグミンの間でも知られている。[27]
・ このようなディートと他の薬剤の複合的影響は、湾岸戦争症候群患者の疫学的研究でも知られている。[28]