DDVP(ジクロルボス)論文10 | 化学物質過敏症 runのブログ

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runより:記事数が多くなり過ぎるので少し長い記事に変えます。

今回は短い方が患者負担になると判断しました。

ご了承ください((。´・ω・)。´_ _))ペコ


・神経伝達物質への影響
DDVP をラットに投与すると、尾状核*やその周囲の核のドーパミン含量を増加させ、青斑核のノルアドレナリン含量を増加させる(Kutsenko and Savateev 1981)。
ラットに10 mg/kg のDDVP 投与した後、脳のカテコルアミン含量が変化した。

ドーパミン含量増加が尾状核や中隔の核で、ノルアドレナリン含量増加が青斑核で見られた。

DDVP 投与前にアトロピンを投与すると、これらの変化は見られない(Kutsenko and Savateev 1981a)。
*尾状核:大脳基底核の1 つ。運動制御に関する機能を持つ以外に、学習屋記憶にも関連するという。
アセチルコリンについては「神経系への影響」を、またアミン類については「行動への影響」を参考にして下さい。

遅発性神系毒性(障害)
遅発性神経障害は、有機リン急性中毒の1-2 ~数週間後に現れる四肢の脱力と運動失調、その後の麻痺が特徴である。

病理学的には脊髄及び末梢神経中の長い軸索の変性が見られる。
30 才の女性が自殺目的でDDVP 約1000 mg/kg を飲んだ。

急性中毒症状が4 日間続いた。飲んだ4 週後に多発性神経障害を起こした。

わずかな回復が21 か月後に見られた。

この症例では運動神経のみがおかされ、感覚神経は正常であった(Sevim et al. 2003)。
ブラジルのリオデジャネイロ大学のVasconecellos et al. (2002)は、DDVP 系の殺虫剤を飲んだ14 日後に下肢の麻痺を伴う知覚過敏を発症した39 才の女性を報告している。

後に上肢で錐体路機能不全が観察された。

この例では、DDVP が:末梢神経のみならず、中枢神経系にも影響していた。
*注:錐体路;脳及び脊髄で随意運動をつかさどる、神経の経路。
急性DDVP 中毒後に遅発性錐体外路を発症した例がある。

Brahmi et al. (2004)はこのような4症例を報告した。

全患者は深昏睡で呼吸不全があり、人工呼吸を施された。

入院時、血漿コリンエステラーゼ活性は大きく減少していた。

手足のジストニア、安静時振戦、歯車様強剛、反射亢進が特徴であった錐体外路症状は5-15 日で発症した、。

これらの患者は薬物治療により徐々に回復した。

筆者はDDVP 急性中毒時に遅延性錐体外路症状も考慮に入れるべきであると述べている。

動物研究
ラットに6 mg/kg/日のDDVP を慢性投与し(8 週間)、生化学及び行動への影響を調べた。

DDVPは神経障害標的エステラーゼや他の酵素活性を低下させた。

アセチルコリンエステラーゼ活性も減少した。

行動では区画移動と常同的な自発運動活動の顕著な低下を起こした。

筋肉の強さや協同も重大な障害も受けた。

条件づけ回避反応で調べた記憶機能の顕著な悪化も見られた(Sarinand Gill 1998)。
比較的大量のDDVP(200 mg/kg)の皮下注射による神経の微小管*(マイクロチュブル)のリン酸化に対する影響を、有機リン誘導遅延性神経毒性(OPIDN)発症後にラットで調べた。

微小管結合Ca+・カルモジュリン依存性タンパクリン酸化酵素とcAMP 依存性リン酸化酵素を測定した(Choudhary et al. 2001)。
回転棒試験で調べた場合投与15 日後までは、投与しない対照と比較して差はないが、21 日目になると有意な差が現れ、回転棒から落下するまでの時間は対照では179 秒であったのに対して、DDVP を投与したラットでは54 秒と、有意な低下を示した。

更に投与動物では筋肉の弱まりも示している(Choudhary et al. 2001)。
以上のことから、DDVP は遅発性神経毒性を誘導することが示された。

このメカニズムの一つは、微小管のリン酸化を起こさせ、微小管を不安定にし、その結果、微小管の変性を、さらに軸索変性を招き、最終的に遅延性神経毒性を招くと思われる(Choudhary et al. 2001)。
DDVP を成熟したニワトリの皮下に大量に投与した後、神経障害が現れた(Nag and Nandi1991)。
以前の研究でアセチルコリンエステラーゼ阻害と遅発性神経毒性との関係が示されてきたが、カテコールアミン、特にドーパミンとの関係も考えられている。
DDVP の1 回の皮下投与(200 mg/kg)により、ドーパミンやノルエピネフリンレベルの変化および両方の合成酵素の増加が起こる。

この増加は主な分解酵素活性の減少をともなう。

この研究は遅発性神経毒性に関係する行動や機能変化の背後にあるメカニズムとしてドーパミン系の変化が重要かもしれないことを示す(Choudhary et al. 2002)。
Masoud et al. (2009)はモノクロトホス(20 mg/kg、経口)やDDVP (200 mg/kg、皮下)を投与し、その15 分後に解毒剤(アトロピン+ PAM、腹腔)を投与して、遅発性神経毒性を誘導した。
ミトコンドリア内のマロンジアルデヒドレベルは高く、チオール含量レベルは低かった。

これはミトコンドリア内酵素であるNADH デヒドロゲナーゼやコハク酸デヒドロゲナーゼ、チトクロムオキシダーゼの活性減少をともなっていた。

遅発性神経毒性発症後、ミトコンドリア機能も減少した。

以上のことは、遅発性神経毒性にミトコンドリア機能の障害が関与することを示していると、Masoud et al. (2009)は考えた。

中間症候群
フェニトロチオンなどの急性中毒後に中間症候群を発症すると知られている。

中間症候群は主に四肢の近位筋や頸部屈筋の脱力が主症状であり、時には脳神経麻痺が起こることがある。
Jin et al. (2008)は女性がDDVP を飲んだ後に現れた両側の声帯に限局した中間症候群の例を報告している。


多発性神経障害
有機リン急性中毒後、2 週間以上後に多発性神経障害が現れることがある。

DDVP を飲んだ後に衰弱や異常感覚、歩行失調で入院した患者の例が報告されている(Koc et al. 2009)。

神経学的検査で衰弱や振動覚消失、両側性下垂足、深部腱反射亢進、両側性バビンスキー徴候*が認められた。

電気生理学的には運動神経末端の多発性神経症がが認められ、両側下肢遠位部で軸索変性が見られた。
*バビンスキー徴候:バビンスキー徴候は、踵から足底外縁を親指に向かってこすると、親指がゆっくりと足の甲の方向に持ち上がり、他の4指が開いて足の裏方向に曲がる反応で、通常2 才以後は消失する反射。

錐体路障害の場合に見られる。

血液脳関門への影響
有機リン剤の中枢神経系機能不全を起こすには血液脳関門を通過して脳内に侵入しなければならないが、この血液関門に対する農薬の影響は良く分かっていない。

Shinha and Shukla (2003)は有機リン剤DDVP、有機塩素剤リンデン、カーバメート剤カーボフランをラットやマウスに経口投与し、脳内に入る蛍光色素のレベルを測定した。

ラットでは入った蛍光色素レベルは農薬を投与しても対象と差はないが、マウスで増加した。

この結果はマウスはラットと比較して血液関門が農薬の影響を受けやすく、このような差は農薬の神経毒性を考慮する場合重要であるだろうと、Shinha and Shukla (2003)は考えた。