・メチル水銀や無機水銀の主な標的は神経系や腎臓・発達中の胎児である。
そのほかに影響を及ぼすと思われている器官や組織には、呼吸器や心血管系・消化器系・免疫系・生殖器系・血液などがある[1]。
● 発達中の胎児はメチル水銀被ばくに特に危険である。妊娠中にメチル水銀に被ばくした女性から生まれた子供は様々な神経学的な異常を示す。
○ 歩き始め時期の遅れ
○ 脳性麻痺
○ 筋トーヌスや深部腱反射の変化
○ 神経学的検査成績の低下
● 一般の人では、メチル水銀被ばくによって多様な中枢神経系への影響が知られている。
○ 運動失調
○ 感覚異常など。
影響を受けやすい集団では、一般集団以下の被ばくレベルで重度の悪影響が現れることがある[3]。
● 胎児では大人より5-10倍も敏感なことが知られており、過敏な原因は発達中の脳で起こっている神経細胞の分裂や分化・移動が影響を受けやすいこと、血液脳関門が未成熟であること、排泄の機構が欠如していることがあげられている。
● 新生児もメチル水銀被ばくに敏感である。メチル水銀や無機水銀が母乳中に排泄されるため、被ばくを受けている集団中の新生児は高い被ばくを受けると思われる。
動物実験では、幼動物は成熟動物より脳に多くの水銀を保持することが知られている。
これは、母乳から多くのメチル水銀を受け取り、排泄が低く、血液脳関門が未熟なためであると考えられている。
● 性差。メチル水銀に対する感受性に性差があることが知られているが、種や系統で異なる。
水俣病に罹患した男女比は1.2:1であったが、死亡率は1.8:1で男性の死亡が多いことが知られている。
しかし、これは摂取量に関連する可能性がある。
● 亜鉛・グルタチオン・抗酸化物質の欠乏。水銀は、活性酸素の発生増加や脂肪過酸化・カルシウム依存性蛋白分解・エンンドヌクレアーゼ活性・燐脂質加水分解の活性化を通じて組織に障害を起こす。
亜鉛やグルタチオン・抗酸化物質の欠乏が水銀による障害を悪化させると考えられており、動物実験で水銀による障害を制限することが報告されている。
● 他の物質との相互作用。アルコール、アトラジン(除草剤)メチル水銀の毒性を強める。
メチル水銀の毒性は遅れて現れることがある[3]。
● メチル水銀を誕生から6.5~7才までサルに投与した実験があるが、投与期間中には神経毒性の明らかな兆候は見られなかったが、投与中断6-7年後の13才になってから神経学的欠陥が明らかになった。
● 水俣でも被ばく終了後数年で新しく発病したり、症状が悪化したことが知られており、この場合も加齢に伴う要因が関連していると思われている。