・4.有害大気汚染物質のリスクの程度に応じた対策のあり方について
有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質リスト及び優先取組物質を見直すことに伴い、これまでの中央環境審議会答申並びに同審議会大気環境部会健康リスク総合専門委員会及び有害大気汚染物質排出抑制専門委員会における取りまとめ又は議論等を基に、他の化学物質関連施策との整合を図りつつ、有害大気汚染物質の分類に応じて、国、地方公共団体及び事業者の各主体の取組が明確となるような対応方針を以下のとおり、整理する。
Ⅰ.基本的考え方
平成9年4月より施行された大防法による有害大気汚染物質対策は、平成8年の中央環境審議会答申「今後の有害大気汚染物質対策のあり方について(中間答申)」において、多くの有害大気汚染物質について効果的、効率的に排出抑制の対策を実施していくため、個々の物質の健康リスクの程度に応じ、有害大気汚染物質を3種類に分類して対策を行うことが適当とされ、これまで、それぞれそのリスクに応じた対策が実施されてきたところである。
その結果、特に「優先取組物質」及び「指定物質」については、過去2期(第1期(平成9~11 年度)、第2期(平成13~15 年度))にわたり、事業者団体の自主管理計画による排出抑制が12 物質についてなされるとともに、第2期においては、ベンゼンに係る地域自主管理計画による取組が5地域でなされた。
さらにその後、個別事業者のそれぞれの責任のもとでの自主的な排出抑制や地方公共団体と事業者との連携による地域主体の自主的取組に移行し、地方公共団体及び国による大気環境モニタリング調査結果においても、大気中の平均濃度はおおむね減少傾向を示しており、その排出抑制が効果的に図られてきた。
一方、「有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質」とされた物質のうち、優先取組物質以外の物質については、有害性情報の収集や一部の物質についての大気環境モニタリング、化管法対象物質についての排出量の把握などの基礎的情報の収集・整理が行われているが、体系的な取組は必ずしも十分にはなされていない。
以上を踏まえ、今後の有害大気汚染物質対策においては、これまでの答申等で示された対応方針や取組内容を継続するとともに、国は、有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質のうち、優先取組物質以外の物質について、そのリスクの程度に応じてより効果的、体系的な有害大気汚染物質対策を実施することが適当である。
Ⅱ.リスクの程度に応じた排出抑制対策のあり方
以下、3類型の物質分類ごとに排出抑制対策のあり方について整理する。
1.A分類物質(有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質)
大気環境を経由して人の健康に有害な影響を及ぼす疑いがある物質
であって、我が国において現に検出されているか、又は検出される可能
性がある物質群
(1)対応方針
本物質については、健康影響に係る知見や大気環境濃度、発生源条件等について、現時点において必ずしも十分な情報やデータが整っているわけではなく、一層の情報収集、知見の集積等が必要である。
このため、本物質の有害性又は曝露性については、物質の有害性、大気環境濃度、環境中の挙動、発生源等に係る基礎的な知見・情報の収集に努めることが重要である。
また、本物質に係るリストを作成し、有害大気汚染物質に該当する可能性
がある旨、国民、事業者及び地方公共団体に公表し、事業者の排出抑制に係る自発的取組に期待する。
(2)主体ごとの取組内容
ア 国
(ア)基礎的情報の収集
物質の有害性、大気環境濃度、発生源等に係る基礎的な情報の収集や
データベースの整備に努める。対象となる物質数が多いことから、物性
等に注目して対象物質を類型化し、当該類型単位で基礎的情報を収集し、5年程度を目途に全物質に係る基礎的情報を収集するよう努める。
特に、化管法対象物質や揮発性有機化合物(VOC)については、PRTRデータ及びVOCモニタリング調査結果等を効果的に活用する。
(イ)普及啓発
有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質に係るリストを作成し、これを公表する。
イ 地方公共団体
(ア)基礎的情報の収集
地域の状況を勘案し、必要に応じてPRTRデータを活用し地域における大気環境濃度、発生源等に係る基礎的な情報の収集に努める。
(イ)普及啓発
収集した基礎的情報を踏まえ、必要に応じて地域住民及び事業者への
情報提供を行う。
ウ 事業者による取組
(ア)自主的な排出抑制
本物質のうち、化管法対象物質については、同法に基づく大気への排
出量等の把握及び化学物質管理指針に留意した管理を実施し、VOCに
ついては、大防法に基づくVOCの排出又は飛散防止措置を実施する。
これらの物質以外のものについても、上記の取組に準じて、自らの有害大気汚染物質に係る製造、輸入、使用及び排出実態を把握した上で、
自主的な排出抑制対策に取り組むことを期待する。
(イ)周辺住民とのリスクコミュニケーション
化管法に基づく化学物質管理指針に規定された事業所周辺の住民への情報提供を活用する等により、本物質に係る周辺住民とのリスクコミ
ュニケーション(注)に取り組むことが望ましい。
(注)「自治体のための化学物質に関するコミュニケーションマニュアル」(平成14 年、
環境省)によれば、リスクコミュニケーションとは、「化学物質による環境リスクに関する正確な情報を市民、産業、行政等のすべての者が共有しつつ、相互に意思疎通を図ること」をいうが、ここでは、広義の意味として、周辺住民への情報の提供も含むものとする。