・日経新聞より
◇特集 学校から始める化学物質対策【★★★☆☆】
枚方市立第3中学校の挑戦に学ぶ
シックスクール問題を取り上げた特集である。特集では、子供たちの生活の舞台となる学校建築に焦点を当て、化学物質対策に向けた提言を行う。まずは現状を把握し、提言に向けた流れを追っていこう。
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1.施設数を限定した整備から
総揮発性有機化合物の測定と併せて学校の空気質向上を
特集で指摘されているように、体重当たりの呼吸量が大人より子供のほうが大きいことから、子供へ与える学校建築の影響は極めて大きい。にもかかわらず、十分な対策がこれまでとられなかったのが問題となっている。空気中に浮遊する微量の化学物質により、頭痛などの症状を引き起こすことを化学物質過敏症(CS)というが、子供によって反応に差異があるのが整備の遅れの要因となっている。
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2. 校舎の化学物質を徹底排除
色モルタルの採用や間仕切り壁の包み込みでTVOC濃度を下げる
CS対策を先導するのが大阪府枚方市だ。たとえば、同市では校舎の建築に際して、2種類の異なる手法でその成果を検証している。一方は、無機質の教室とされ、たとえば海藻を原料にした接着剤を使用する。もう一方が、有機質の教室とされ、金属アレルギーに対応して、無垢材の床、無塗装の縁甲板を用いる。
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3. 技術者の熱意が生徒を救う
前例なき建物づくりの魅力は金や労力に勝る
この項ではソフト面の対策を追う。基本的には全国一律の仕様で整備される学校建築であるが、発注者、施工者の意識が全く異なる結果を生み出す。先の枚方市では職員が発注後の校舎設計に対し自ら勉強会を重ね、外部講師の協力を仰いだ。受注した西松建設は、CS対応の教室と通常の教室の作業員を分けた他、朝礼の別開催、非喫煙者の割り当てなどで対応した。
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4. 「学校の改善が街の魅力に」
人口増を実現する枚方市長が語る学校を核とした街づくり
特集の最後の項では枚方市長が登場する。CSを抱える児童が入学するにあたって市や学校ではどういった対応をとるべきか。枚方市はすべての生徒・児童が義務教育を受けられるようにするために、多少のコスト増を受け入れた上で化学物質対応を実施した。その際、市長は、市職員、施工者の果たした役割はもちろんのこと、設計アドバイザーがCSを患う人とそのつらさを簡単には理解できない市職員の間を取り持ったと評価する。
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こうした対策で、増分のコストが総事業費の0.5%と示されたのは、今後、取り組もうとしている他自治体にとって有益な指標となるだろう。単なるアイデアだけでは制度の壁を乗り越えられないのは明らかだ。こうした取り組みの効果もあるのか、枚方市では20代、30代の子育て世代をはじめ人口が増加しているという。疲弊する地方都市にあっても参考になる事例だろう。
◇脇坂 圭一(わきさか けいいち)
名古屋大学施設計画推進室准教授。1971年、札幌市生まれ。東北大学卒業後、建築設計事務所勤務。デンマーク・オーフス建築大学留学。東北大学大学院博士課程後期修了後、脇坂圭一アーキテクツ設立。東北工業大学、東北文化学園大学、東京芸術学舎にて非常勤講師。博士(工学)。建築学会東北建築賞研究奨励賞受賞。