・出典:YOMIURI ONNRINE
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/
電磁波の影響を自ら体験したと語る新城哲治さん(沖縄県糸満市の西崎病院で) 那覇市の高台の10階建てマンション。
2004年暮れ、その最上階で、西崎病院(沖縄県糸満市)の内科医、新城哲治さん(48)の家族6人は暮らし始めた。
海まで見渡せる眺望と広いテラスが家族のお気に入りだった。
屋上には携帯電話の電波を中継する携帯電話基地局のアンテナ(800メガ・ヘルツ用)があったが、気に留めなかった。
ところが、携帯電話会社が2ギガ・ヘルツの電波に対応するため、新たなアンテナを立てるなど屋上設備を増設した08年3月以降、家族の体に次々と異変が起こった。
長女と三女が繰り返し鼻血を出した。
次女は耳鳴りと日中の睡魔を訴えた。
長男には1分間に200回の頻脈や不整脈が表れた。
新城さんもひどい頭痛と不眠に悩まされた。
妻で看護師の明美さん(47)はめまいや耳鳴りに加え、引っ越しの半年後から表れた肩の痛みが悪化した。
大学で細胞や遺伝子の研究を長く続けていた新城さんは「基地局が発する電磁波は、自然界に存在しない。
人体の神経細胞の電気の流れを乱し、体調不良を招いても不思議はない」と判断し、転居を決意。同年10月、短期賃貸マンションに避難した。
1週間ほどで新城さんの頭痛は消え、娘たちの鼻血や耳鳴り、睡魔は治まり、長男の脈拍は70台で落ち着いた。
明美さんはひどかった肩の激痛が消えた。
翌月には別の家を借り、生活は落ち着き始めたものの、マンションの他の居住者の健康が気がかりだった。
夫妻は全世帯を回り、病歴などを詳細に聞き取った。
その結果、基地局に近い高層階を中心に、だるさ、意識障害、鼻血など170件の症状を確認。
このうち121件は、新たなアンテナ増設後に起こっていた。新城さんは「電波出力の増加が原因」とみる。
携帯電話会社が、このマンションの廊下や室内で測った電磁波の強さは、すべて国の基準値以下で「健康に影響はない」としたが、マンション理事会は、基地局の設置契約を更新しないことを決め、09年にすべて撤去された。
3か月後、夫妻は再び全世帯の健康調査を実施。症状は22件で8分の1に減った。
10件あった鼻血は0件だった。
新城さんは「調査結果は、国の基準値以下の電磁波でも健康被害が起こりうることを示している。国や業者は基地局の設置場所の再考や、基準値の見直しを進めるべきだ」と訴える。
携帯電話基地局
周辺の携帯電話から電波を受けるなどして、通話を中継する施設。
鉄塔やビルの屋上などに設置され、約18万局(昨年3月時点)ある。
基地局の電波の強さは法律で規制され、総務省は「体に届く電波は基準値を大きく下回り、健康に影響を及ぼす証拠はない」としている。
(2011年9月13日 読売新聞)