乳房の発達への影響:乳癌の素因
ダイオキシンは一般にはプロモーターと考えられています。
癌の発生は体細胞の遺伝子の変化で始まりますが、遺伝子が変化しただけでは十分でなく、プロモーターによりはっきりとした癌に増殖していくと考えられています。
このことから、ダイオキシンが様々な癌の発生に関与する機構をうまく説明できます。
しかし、最近ではプロモーション以外の作用も分かってきました。
ダイオキシンが乳癌を抑制することは動物実験や疫学研究で知られていましたが、母ネズミの子宮内で被曝した子ネズミは乳癌になりやすいことも知られています。
この不思議な現象を解明するために、生まれたネズミの乳房の発達をしらべた研究グループがいます。
乳腺が発育する時、性ホルモンの影響下を受け、乳管は乳首の方から脂肪内にのびて行き、枝分かれして行きます。
その先端を終末芽といいます(図)。
終末芽は乳癌が発生する場所で、乳房の終末芽の数と乳癌になりやすさとの間に直接的関連があるといわれています。
少量のダイオキシンに被曝した妊娠ラットから生まれた雌の子は、生まれた時は正常でしたが、生後7週の時には乳腺に異常に多数の「終末芽」が発達していました。
次に、この幼いラットを発ガン物質として良く知られているジメチルベンツ[a]アントラセンに曝したところ、ダイオキシンに母体内で被曝した幼弱ラットでは、被曝しなかったラットより、多くの乳癌が発生しました。
この研究はダイオキシンが乳癌になりやすい素地を作っていることを示しています。
虫歯
特に高度の汚染を受けていない場合でも、すでに微妙な影響が現れていることを示している研究があります。
1980年代はじめ、フィンランドの歯科医のグループは多くの子供の臼歯の発達が悪く、エナメル質が柔らかいことに気づきました。
事故で高いレベルのダイオキシンに被曝した母親から生まれた中国の子どもでも、フィンランドの子供と同じような歯の欠陥がありました。
これを手がかりとして、ダイオキシンとの関連を探るため、低レベルのダイオキシンをラットに投与しました。
ラットでも人間で見られたエナメル質の欠陥が発生しました。
出産後4週目に母乳中ダイオキシンを検査した母親から生まれた6~7才のフィンランドの子どもをを調べたところ、16.6%の子どものエナメル質は柔らかく、虫歯を防ぐには不十分でした。
この研究では悪い歯を持つ子どもたちは母乳中のダイオキシンレベルが高い母親たちから生まれたことがわかりました。
癌
動物での研究
動物実験では、ダイオキシンにより口腔や鼻腔・甲状腺・肺・肝・副腎に癌が発生することが知られています。
人間での研究
人間の疫学調査では、口腔や鼻腔・胃・肝臓・胆道・脳・甲状腺・卵巣・子宮・精巣・乳房に癌が発生する傾向が見られています。
その他に癌全体数や全消化器癌・肉腫・リンパ腫などの増加も報告されています。
ドイツ癌研究センターのベッチャーらは、1952年から1984年までフェノキシ系除草剤を作っていた工場で、ダイオキシン類に被曝した労働者を調査しました。
1992年末までの追跡調査で年齢を調整した標準化死亡率は全癌で141(約1.4倍)に増加しています。
ダイオキシン濃度を275人で測定したところ、最高では2253 ng/kgまでありました。
1998年、ベッチャーらは、一日に体重1 キログラムあたり1ピコグラム (1pg/kg/日)のダイオキシンを摂取すると、1000分の1から100分の1の発癌のリスクが増加すると報告しています(*)。
この癌の推定発生率は米環境保護庁(EPA)の推定より、10倍から100倍ほど高いものになっています。
また、ベッチャーら(*)は、ドイツの4工場の全員で2479人を1989年末まで(1工場では1992年末まで)フェノキシ除草剤やその汚染物ダイオキシン被曝と癌死亡率との関連を調べました。
全死亡者は484人で、年齢標準化した全死因による死亡率は101で一般的ドイツ人(100とする)との差は見られませんでした。
しかし、全悪性腫瘍の死亡率は119と上昇しました。労働者の血液脂肪中のダイオキシン測定によると、2つの工場ではダイオキシン類にひどく汚染されていました。
全癌による死亡率は経過時間とともに増加し、最もダイオキシンで汚染された工場で高かったことが知られています。
全工場で死亡率が増加したのは、呼吸器癌 (1.54倍)、頬と咽頭の癌 (2.95倍)、非ホジキンリンパ腫(3.26倍)でした。
1993年、国際癌研究機構のコゲビナスらは、クロロフェノキシ除草剤、クロロフェノール、ダイオキシンに汚染された701人の女性の癌のリスクを報告しています(*)。
全癌発生率は全体では増加しないが、ダイオキシンを含むフェノキシ除草剤に被曝した場合は2.2倍増加していることが分かりました。
ドイツのハンブルクにある保健部のベルガーらは、ダイオキシンで汚染された除草剤製造工場の化学工場従業員(1184 男性, 399 女性)の調査を行いました。
クロルアクネの発生があった後、1954年からダイオキシンの発生は減少しました。
1952年から1984年に雇用されていた労働者の97.4%について、1989年までの生活状態を調べたところ、367人(男性313人、女性54人)の死亡が記録されました。
悪性新生物による死亡は男性で93人、女性で20人でした。標準化死亡率を計算したところ、全癌死は1.24倍で、男性では1.39倍でした。
男性では20年以上雇用された男性 (1.87倍)とダイオキシン汚染が高かった1955年以前に雇用された労働者 (1.61倍)で増加していました。
ダイオキシンに最も高度に被曝したと推定される労働者では1.42倍でした。
女性では癌の過剰な発生は見られませんでしたが、乳癌の発生率が上昇していました(2.15倍)。
runより:人間が作った最強の毒物がダイオキシンです。
実はかなり身近に存在します、タバコです。
草焼きなど温度の低い炎で化学物質を燃やすと発生したりします。