これらの疾患や影響の主なものについて簡単に説明します。
ステロイドホルモン
女性ホルモンと男性ホルモンについてダイオキシンの影響を示します。
女性ホルモンへの影響
マウス、ラット、サルで影響が認められています。
ダイオキシンは受精能力や一度に生まれる子どもの数・子宮重量に影響します。
子宮重量と発情サイクルはエストロゲンに支配されており、ダイオキシンは抗エストロゲン作用を持ち、雌の生殖機能に障害を起こします。
この影響は生体内の組織や発生時期に特異的であるとされています。
ダイオキシンは受容体と女性ホルモンの代謝活性化に影響をおよぼすと考えられています。
マウスではダイオキシンは循環血中エストラジオール(女性ホルモンの一つ)に影響を与えませんが、子宮の細胞内および核内のエストロゲン受容体を減らします。
ラットでは子宮や肝臓のエストロゲン受容体のエストロゲンとの結合力を低下させますが、血清中エストラジオールレベルには影響を与えません。
培養細胞をダイオキシンに曝すと、エストラジオールの代謝は100倍になると報告されています。
ラットに投与すると肝臓での代謝速度は2~4倍になります。
このことによって体内のエストラジオールが減少すると考えられています。
男性ホルモンへの影響
ダイオキシンを成熟したラットに投与した場合、精巣と付属生殖器官重量の減少、精子形成の低下、受精力の低下を起こします。
これらの影響は血漿中のテストステロンレベルの低下と関連しているとされています。
テストステロンレベルの低下は、テストステロン分泌を促す黄体形成ホルモンに対する精巣の反応性の低下と、アンドロゲンによりフィードバック阻害される下垂体の反応性の亢進によると考えられています。
この影響は敏感なものではありませんが、疫学的研究ではダイオキシンに被曝した労働者でテストステロンの減少が証明されています。
甲状腺ホルモン
ダイオキシンは血中の甲状腺ホルモンを減少させます。
このメカニズムは、ダイオキシンが肝臓中の甲状腺ホルモンを代謝する酵素を増加させ、その結果甲状腺ホルモンが分解されるためであると考えられています。
1993年、オランダのアムステル大学病院のプルイムらのグループは、ダイオキシン類が甲状腺ホルモンレベルに与える影響を、健康な母乳栄養児38人で調べました。
母乳の脂肪中のダイオキシン濃度によって2群に分けました。出生時には高度ダイオキシン被曝群で全チロキシン濃度が高いことがわかりました。出生時と1週間後では甲状腺刺激ホルモン濃度は両群で同じでしたが、11週目には高度被曝群では甲状腺刺激ホルモンレベルが高いことが分かりました。
このことは誕生前後のダイオキシン被曝は甲状腺を調節する系に影響を与えることを示しています。
甲状腺は身体の代謝を促進すると同時に、脳の発達にも重要です。甲状腺ホルモンの異常が行動異常に関係しているという報告があります。