7.2.2生物農薬
生物農薬とは、病害虫等の防除目的のために特別に製剤化された天敵生物等を人為的に使用することにより、生物的防除を行うもので、一般の化学合成物質の農薬とは大きく異なる。
7.2.3 昆虫成長制御剤(IGR剤)
昆虫のキチン合成阻害あるいは幼若ホルモン様物質などを利用し、昆虫の成長を阻害する農薬。
一般に、幼虫期に効果が高いが、遅効的であり、使用時期が重要となる。
7.2.4 フェロモン剤
合成した昆虫の性フェロモンをポリエチレンチューブなどに封入し、極微量のフェロモンを気中に拡散させることにより害虫の行動を攪乱(交尾行動の阻害等)したり、あるいはフェロモントラップで大量に雄成虫を誘殺することにより、結果的に次世代の幼虫の発生を抑制することを目的とする薬剤。広面積を対象として行う必要がある。
人への暴露等はほとんどない。
7.2.5 散布前に散布地域周辺への周知
農薬を散布する場合は、事前に周辺住民に対して、農薬使用の目的、散布日時、使用農薬について以下の留意点に配慮し、十分な周知に努める。
なお、散布以外の方法(例えば樹幹注入)で農薬を使用する場合でも、必要に応じて周知を行うように務める。
○農薬使用の目的については、例えば、「○○公園のツバキにチャドクガが発生しているので、周辺住民に当該害虫による皮膚の炎症を起こさないために」等散布の目的を具体的に記す。
○散布日時については、可能な限り早めに付近の住民に知らせるとともに、気象条件が合わない場合の代替日についても知らせる。
○使用農薬については、具体的な農薬名、希釈倍数、散布方法を記す。
○農薬散布区域の近隣に学校、幼稚園、保育園、通学路、図書館等がある場合には、当該学校等を通じて子供の保護者等への周知を図るとともに、散布の時間帯に最大限配慮する。
○公園等における病害虫防除においては、事前に立て看板等で表示を行う。
○事前に散布場所近隣に化学物質に敏感な人が居住していることが判明している場合は、散布する農薬、散布量、時間等を可能な限り早期に連絡し、必要があれば、対応について相談する。
○農薬散布は、無風または風が弱いときに行うなど、飛散が少ない気象条件や時間帯を選ぶとともに、周辺地域での人出が少ない時間帯を設定する。
○住宅地付近では、窓を閉め洗濯物を屋外に干さないこと、乗用車を付近に駐車しないようあらかじめ要請するとともに、散布時に、これらをチェックし、必要であれば、再度、住民に要請する。
○周知については、周辺住民に対して、町内会の回覧物や個別住居へのチラシの配布、広報車による案内等を行うとともに、住民からの問い合わせに対応できるよう連絡先の表示を必ず行う。
7.2.6 作業時の留意事項
水で希釈した散布液を散布する場合は、近隣の住宅地への飛散を可能な限り防ぐため以下の点について留意する。
○散布に使用するノズルについては慣行のノズルを見直し、近年開発が進んでいるドリフト低減ノズルの使用を検討するとともに、取扱説明書を確認し適切な圧力で散布を行い飛散を防ぐ。
なお、環境省が平成19年に行った調査結果*6では、ドリフト低減ノズ
ルを使用した場合、慣行ノズルに比べ気中濃度を抑制することが確認された。
また、周辺へのドリフトを防ぐ観点から農薬散布地の周辺に細かいネットやシートを設置する等遮蔽物の設置方法も、各都道府県等で開発されてきており、関係部局と検討を行うことも重要である。
○無風または微風の気象条件で散布する。
風向きに注意し、住宅地や農地への飛散が可能な限り少ない風向きでの散布を行う。
○散布地近辺に遊具等がある場合は、遊具の移動、遊具が移動できない場合は、シートをかぶせる等を行う。
○散布時は、ロープ等を張り立入り制限したり、必要に応じて見張りを立てること等により、散布区域内に農薬使用者以外の者が入らないよう最大限の配慮を行う。
○散布する際は、樹木全体への散布は可能な限り避け、病害虫の発生部位等へのスポット散布とする。
なお、環境省が平成19年に行った調査結果*6では、スポット散布及び
散布薬量を通常(したたり落ちる程度)の半分にした場合でも十分な効果が確認された。
○17年度のアンケート調査によると高木への散布に対する住民からの苦情が非常に多い。
このことは、高所に薬剤を付着させるため、到達距離の長い鉄砲ノズルの利用や、高い散布圧力などにより、高木への散布が周囲への飛散につながっていると考えられる。
このため、高木での病害虫の発生が激しい場合は、樹種更新、又は一定以上の高さの樹木の剪定等を検討し、歴史上保存が求められている樹木であるなど、やむなく薬剤散布を選択する場合でも、足場を設置する等してできるだけ至近距離から、高い散布圧力を用いず、必要な部分のみに散布する等の対策をとる必要がある。
なお、農薬を使用する際は、事故防止のため以下の点についても留意する。
○毒物又は劇物に該当する農薬のみならず、全ての農薬について、安全な場所に施錠して保管する等農薬の保管管理には十分注意すること。
○農薬を他の容器(清涼飲料水の容器等)へ移し替えないこと。
○散布作業前日及び散布作業後には、飲酒をひかえ、又、十分な睡眠をとること。
○体調の優れない、又は著しく疲労しているときは、散布作業に従事しないこと。
○農薬の調製又は散布を行うときは、農薬用マスク、保護メガネ等防護装置を着用し、かつ、農薬の取扱いを慎重に行うこと。
○散布に当たっては、事前に防除機等の十分な点検整備を行うこと。
○風下からの散布等はやめ、農薬を浴びることのないように十分に注意すること。
○農薬散布時に、頭痛やめまい、吐き気を生じるなど、気分が悪くなった場合には、直ちに散布をやめ、医師の診断を受けること。散布後に気分が悪くなった場合でも同様である。
なお、実際に事故が発生した場合の緊急問い合わせ先として、(財)日本中毒情報センターの中毒110番がある(一般市民専用)。
大阪中毒110番(365日24時間対応)072-727-2499
つくば中毒110番(365日9時~21時対応)029-852-9999
○作業後は、手足はもちろん、全身を石けんでよく洗うとともに、洗眼し、衣服を取り替えること。
○農薬の空容器、空袋等の処理は、廃棄物処理業者に処理を委託する等により適切に行うこと。