最後に、化学物質が体内に入った後に「生物(人や他の動物)の体内でおきることは、なにか?」というポイントです。
これは、口から食べた食品が体を通過していくことを事例に考えれば分かりやすいでしょう。
つまり、口から食べた物が、胃腸で消化・吸収され(「吸収」)、血液で体中に運ばれ、エネルギー変換または貯蔵され(「分布」)、不要な物・危険な物は肝臓や腎臓で変換・代謝され(「代謝」)、便・尿・汗として排泄(「排泄」)される。
また、血液で体中に運ばれていく中で、食品として有用な作用を及ぼす所では、その物質がある量に達した時点で有用な働きをするでしょうし、毒性・副作用を及ぼす所では、毒性・副作用を及ぼす量に達した時点で悪い働きをするでしょう。
同じ化学物質でも、吸収、分布、代謝、排泄を経て、体内で有用な働き(プラスになること、ベネフィット)と毒性・副作用となる働き(マイナスになること、リスク)をします(図1右側記載参照)。
また、最近の遺伝子技術・研究により、この吸収、分布、代謝、排泄ですら遺伝背景の違いにより個人差が大きいことが明らかになっています。
ですから、この化学物質が危険かということを考える際には、この有用な作用と悪い作用のバランスを天秤にかけて、その個人において悪い作用の方が大きいのかどうかを総合的に判断することが必要になってきます。
みなさまにぜひ覚えて頂きたい第3のポイントは、どんな化学物質でも必ず吸収、分布、代謝、排泄という体の生存・防御機構を通過する中で、有用な働きと悪い働きの両方に作用しており、これを総合的に判断しないと本当の良し悪しは決められないということです。
日常生活の中で、ある化学物質を食べてしまったとしても、過剰に反応するのではなく、このような科学的な目で総合的に判断されるとよろしいかと思います。
さて今回は、いわゆる化学物質の毒性、副作用やリスクに関わる専門家が常に参考としている毒性学の基本的な考え方を、読者のみなさま向けにお伝えした次第です。
図1にあるような科学的な考え方の枠組みを普段の生活や判断に活かされることを祈念する次第です。次回も、お楽しみに。