・解説
製造物責任法3条は、製品に欠陥があり、その欠陥によって身体を侵害されたときには、製造業者等に損害賠償を請求できる旨規定する。
被害者は、製造業者等による過失を主張、立証しなくても製品に欠陥があったことを立証すればよいことになっており、その点では被害者の主張、立証責任は緩和されている。
しかし、製造物責任法によっても、被害者は民法709条の場合と同じく、因果関係と損害については被害者が主張、立証しなければならない。
ところで因果関係の立証は「一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然(がいぜん)性を証明することであり、その判定は、通常人が疑義を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。」(最高裁昭和50年10月24日判決・『民集』(最高裁判所民事判例集)29巻9号1417ページ、「判例時報」792号3ページ)とされている。
しかし、食品や化学物質などによる身体侵害はさまざまな原因で発症し、その態様もさまざまなものがあるので、その因果関係の立証は必ずしも容易ではない。
Xらは、一審から不法行為、債務不履行による責任のほか、製造物責任法3条による責任も主張していた。しかし、原審はAの医師により、本件ストーブから発生した有害物質の暴露がX1の症状の発症原因と考えられるとしているが、同医師による診断は、X1の発症から約10カ月が経過した段階でのものであること、化学物質過敏症の診断基準も暫定的なもので絶対的なものではないこと、問診表の回答では、化学物質に対してほとんど反応していないこと、X1が入院した病院では、最終的には脳幹脳炎であるとの診断がなされ、時期的にも真冬であることからウイルス感染による可能性も否定できないことなどから、同医師の診断があるからといってX1の症状が科学物質によるものであるとは即断できないとしたうえ、化学物質が発生してもそれが直ちに人体に影響を与えるものではないこと、X1以外に同様の症状を発症した者の存在が窺(うかが)われないことは、同型ストーブの販売台数に照らすと個人差を考慮しても不合理であることなど指摘し、X1の症状と本件ストーブの使用とは因果関係を認める証拠はないとしていた。
本判決は、原審とは異なり、因果関係を認めたうえ、Yの予見可能性も肯定し、製造物責任法3条の責任ではなく、不法行為による損害賠償を認めたものである。
参考判例
本件第一審判決として、東京地裁平成17年3月24日判決『判例時報』1921号96ページ。
因果関係が争われた事例として、名古屋地裁平成16年4月9日判決『判例時報』1869号61ページ(漢方薬、肯定)、大阪高裁平成13年11月30日判決『判例タイムズ』1087号209ページ(ガスファンヒーター、否定)、東京地裁平成12年5月22日判決『判例時報』1718号3ページ(化粧品、否定)、東京地裁平成11年8月31日判決『判例時報』1687号39ページ(業務用冷凍庫、肯定)などがある。
なお、同じ化学物質過敏症が問題となった殺虫剤事件として東京高裁平成6年7月6日判決『判例時報』1511号72ページ(控訴審、否定)がある。