食物アレルギーと腸管免疫系との関わり | 化学物質過敏症 runのブログ

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・シンポジウム11
食物アレルギーをめぐる新たな進展
司会者:河野陽一1), 宇理須厚雄2)(千葉大学医学部小児病態学1), 藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院小児科2))

S11-2.食物アレルギーと腸管免疫系との関わり

大野博司
理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター免疫系構築研究チーム


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食物アレルギーの発症は腸管免疫制御と密接に関係していると考えられる.腸管免疫系は過度の炎症反応を回避するための方策として,免疫抑制(immunosuppression)ならびに免疫排除(immune exclusion)という2つのメカニズムを発達させてきた.

免疫抑制は腸内常在菌叢や食物抗原などの「無害」と考えられる抗原に対する全身性・局所性の過度の炎症反応を抑えるものであり,腸管免疫系を介する場合を特に「経口免疫寛容」と称する.

腸管において体内外の境界をなす粘膜上皮細胞の物理的バリアーとしての役割も重要であり,新生児~乳児期にはこの粘膜上皮バリアーがまだ完成しておらず脆弱なため,経口免疫寛容の破綻から食物アレルギーを発症する可能性もある.

食物アレルギー罹患児では粘膜上皮バリアーの透過性が亢進しており,6ヶ月以上アレルゲン除去食を続けたあとでも透過性は亢進したままであることが報告されている.

経口免疫寛容の成立機序は未だ完全な理解には至っていないが,近年制御性T細胞の重要性が示されている.

一方免疫排除は,主として分泌型のIgAにより細菌やウイルスなどの定着や粘膜上皮を越えての体内への侵入を防ぐが,多くの食物抗原に対しても特異的分泌型IgAが産生され,経口免疫寛容の成立に関与するとの報告もある.

実際,IgA欠損症では食物アレルギーを含む様々なアレルギーに罹患しやすいことを示唆する疫学的研究も存在する.

腸管免疫系の正常な発達には,腸内細菌との相互作用が重要である.

パイエル板に代表される腸管免疫系を覆う上皮には,M細胞と呼ばれる特殊な上皮細胞が存在する.

M細胞は腸内抗原の腸管免疫系への取り込みに特化した細胞であるが,その機能の分子レベルでの解明はほとんど進んでいなかった.

最近我々は,M細胞上に存在するglycoprotein 2(GP2)という分子が,サルモネラ菌や大腸菌などのI型線毛を有するグラム陰性腸桿菌の一群の特異的受容体として機能し,これらの細菌に対するIgA免疫応答に重要であることを示した.

M細胞とGP2をツールとして腸管免疫系の理解や,さらにはその人為的制御が可能になれば,食物アレルギーの制御・治療の分子基盤の提供に繋がる可能性がある.

第60回日本アレルギー学会秋季学術大会 2010年11月開催