・シンポジウム8
アトピー性皮膚炎の増悪因子と合併症
司会者:西岡 清1), 海老原伸行2)(1)横浜市立みなと赤十字病院, 2)順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科)
1.乳幼児アトピー性皮膚炎における食物アレルギーの関与
伊藤節子
同志社女子大学 生活科学部 食物栄養科学科
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平成9-12年度厚生科学研究による「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2001」では治療の三本柱の一つとして原因・悪化因子の検索と対策が挙げられ,年齢群別に列挙されている.
2歳未満児および2-12歳児のうち低年齢児においてはアトピー性皮膚炎の原因・悪化因子として食物が第一にあげられており2005年度版においてもそのまま踏襲されている.
京都市営保育所における全園児1,642名を対象にした調査結果(回収率100%)から乳幼児アトピー性皮膚炎と食物アレルギーとの関係を見てみると,アトピー性皮膚炎の原因は不明との解答が最も多く,明確な原因として挙げられた原因の中では食物が最も多かったが,全体の38.9%に過ぎなかった.
一方,食物を原因とするアレルギー性疾患児153名の中でアトピー性皮膚炎が認められなかったのは6名に過ぎず残りの147名(96.1%)にはアトピー性皮膚炎が単独であるいは他の疾患に合併して認められた.
このように乳幼児アトピー性皮膚炎の原因・悪化因子として明確なものとしては食物が第一に挙げられ,逆に食物アレルギーによる疾患としては乳児期に発症するアトピー性皮膚炎が90%以上を占める.
乳児期発症のアトピー性皮膚炎児の特徴として,アトピー素因が強いことがまず挙げられ,食物抗原による感作が高率に成立しているのみならず,室内ペットによる感作もしばしば成立しており,しかもアトピー性皮膚炎の原因・悪化因子となっている.
経過を追っていくとダニやスギ花粉などその他の抗原による感作が成立していくことが多く,中学生になるとスギ花粉の飛散時期に限定した顔面の皮膚炎を起こして数年ぶりに受診する例を経験する.
乳児期発症の食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎の原因抗原は母乳中の抗原(数十ng/ml)のように微量の食物抗原であることが多く,非即時型反応による症状が主体であるが,離乳食として,あるいは育児用粉乳としてその抗原を10万―100万倍量含む食品を直接摂取すると即時型反応をおこすことがあるので注意が必要である.
乳幼児アトピー性皮膚炎における原因・悪化因子としての食物の関与の実態とその後の経過,および合併症としての即時型反応について述べる予定である.
第56回日本アレルギー学会秋季学術大会 2006年11月開催