・シンポジウム7
シックハウス症候群の現状と展望
座長:鳥居新平1),長谷川眞紀2)(1)愛知学泉大学,2)(独)国立病院機構相模原病院アレルギー・呼吸器科)
5.動物モデルを用いた病態に関する研究―とくに中枢神経と揮発性化学物質
佐々木文彦1),市川眞澄2),嵐谷奎一3),藤巻秀和4)
大阪府立大学大学院 農学生命科学研究科1) 東京都神経科学総合研究所2) 産業医科大学3) 独立行政法人国立環境研究所4)
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[目的]本研究の第一の目的は低濃度ホルムアルデヒド曝露が視床下部―下垂体―副腎(HPA)軸に如何なる影響をもたらすかを解明することである.又,シックハウス症候群に罹患する患者の多くは,アレルギーを発症している事から,アレルギーモデルマウスのHPA軸が低濃度ホルムアルデヒドの曝露でどのようになるかを検討する事が第二の目的である.
[方法]動物:C3Hマウスをホルムアルデヒド曝露群(A群)とアレルギーモデル群(B群)に分類した.
A群では80ppb,400ppb,2000ppbの濃度で12週間ホルムアルデヒドを曝露し,空気曝露のマウスを対照に用いた.
B群は抗原としてOVAを曝露開始前に10μg/マウスの濃度で2mg alumとともに腹腔内に投与し,以降OVAを3週間ごとにエアロゾル感作した.ホルムアルデヒド曝露は,A群同様に行った.
解析方法:視床下部室旁核のCRH神経細胞,下垂体のACTH細胞を免疫組織化学的方法と組織計量計測法にて解析した.
下垂体のACTH-mRNAの発現量は,半定量的RT-PCR法にて解析した.
[成績]A群(OVA-):CRH-免疫陽性(ir)神経細胞数は,ホルムアルデヒド曝露量依存的に増加していた.
B群(OVA+):B群の対照群マウスのCRH-ir神経細胞数は,A群マウス対照群のものより有意に増加していた.
80ppb曝露マウスのCRH-ir神経細胞数は,さらに増加し,A群の2000ppb曝露マウスの値と差はない.
400ppbと2000ppbでは減少した.
下垂体のACTH-ir細胞の出現率,数とACTH-mRNAの発現量の結果は,AとB群共にCRH-ir神経細胞数のものと一致していた.
[結論]A群マウスの結果からホルムアルデヒドがHPA軸にストレッサーとして作用している.
B群マウスの結果から,アレルギーはストレスとしてHPA軸に働き,低濃度のホルムアルデヒド曝露はアレルギーの感受性を高めたと考えられる.
また,B群マウスの高濃度ホルムアルデヒド曝露ではHPA軸が障害を受け,ストレスに対応できなくなっており,更なるストレス(腹痛,頭痛など)を処理できない状態になっていると推察される.
すなわち,本モデルマウスの結果から,シックハウス症候群の発症とは,アレルギーとホルムアルデヒドの2つのストレスが相乗的に作用して,HPA軸が損傷を受け,更なるストレス(腹痛,頭痛など)に対応できなくなった状態の可能性が考えられる.
第17回日本アレルギー学会春季臨床大会 2005年6月開催