・シンポジウム7
シックハウス症候群の現状と展望
座長:鳥居新平1),長谷川眞紀2)(1)愛知学泉大学,2)(独)国立病院機構相模原病院アレルギー・呼吸器科)
1.シックハウス症候群の概念整理と病態の検討
相澤好治
北里大学医学部衛生学公衆衛生学
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平成16年2月に公表された厚生労働省の室内空気質健康影響研究会によるシックハウス症候群(SHS)の定義は,狭義には「室内環境における様々な環境因子の関与が想定される皮膚・粘膜刺激症状や,頭痛・倦怠感等の不定愁訴を主体とする非特異的症状群」であるが,一般的には「居住者の健康を維持するという観点から問題のある住宅において見られる健康障害の総称」とされた.
後者は不明な機序で発生する状態に加えて,アレルギーや中毒の機序で発生する症状も含まれ,その範囲が広いため,臨床現場で混乱があるのといわれている.
そこで日本衛生学会の室内空気質研究会は,SHSの概念整理を試み,アレルギー疾患や中毒は,室内環境要因を配慮しながら従来の方法で対応し,化学物質過敏症(MCS)など機序不明な状態に対しては,今後病態解明の研究を続けてゆく必要があるとの見解をまとめた.
1.SHSの分類の試み
SHSの専門医療施設を受診する患者は一様でなく,中毒,アレルギー症状の発生・増悪,精神症状や心理社会的背景による人も存在する.
そこで,受診者の病歴から,4型への臨床的分類を行った.北里研究所病院臨床環境医学センターへの受診者222人の診療記録から発症契機を
(1)中毒,
(2)化学物質曝露の可能性が大きい群,
(3)心理社会要因・精神的要因,
(4)アレルギーに分類した.
その結果,化学物質曝露によるシックハウス症候群が約半数を占め,心理・精神要因,アレルギー,中毒がこれに次いで多かった.臨床環境医3人と一般医3人の判定の相違についても検討し,問診(Quick Environment Exposure Sensitivity Inventory,QEESI)により,MCSと判定された例との関連についても検討した.
2.MCSの病態解明
現在まで,MCSの病因論に関する数多くの仮説が提唱されているが,これらの仮説は,免疫毒性,神経毒性あるいは心理学的・精神生理学的機序を介する条件付け行動などである.
MCSでは,ホルムアルデヒド,有機溶剤,殺虫剤など化学物質への曝露の結果,多種の化学物質に過敏状態になるとされているが,その機序については解明されていない.
MCSの発症メカニズムに嗅覚が深く関与しているという説があるので,25人のMCS症例と健常対照50人において,においの認知とにおいに対する情動を比較した.
その結果,認知の相違はみられなかったが,不快に感じる一人当たりにおい数がMCSで多かった.
MCSの病態として,中枢神経系関与の仮説を検証するため,低濃度トルエン曝露時のfMRIによる脳画像解析を行っており,中間的な報告も行う予定である.
今後,シックハウス症候群の概念を明確化するため,適正な臨床分類に基づく,特異的な臨床生理学的診断法を用いた疫学調査のための診断基準の作成が必要であると思われる.
第17回日本アレルギー学会春季臨床大会 2005年6月開催