化学物質過敏症患者の日常生活中の症状プロフィールの検討 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・シンポジウム8
化学物質過敏症の診断・治療と問題点
座長:坂部 貢1),山川有子2)(1)北里研究所病院臨床環境医学センター,2)横浜栄共済病院皮膚科)

5.化学物質過敏症患者の日常生活中の症状プロフィールの検討

熊野宏昭,齊藤麻里子,吉内一浩,久保木富房
東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学


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 【目的】化学物質過敏症(MCS)患者に対して,診察室で問診を行うと,身体症状の自覚はしている一方で,精神症状の自覚は乏しいことが多い.

しかし,化学物質の負荷のある現実生活中では異なっている可能性がある.われわれは,小型コンピュータなどを携帯することにより症状の経時的変化を評価するEcological Momentary Assessment(EMA)の手法を用いて,MCS患者の日常生活中でのプロフィールを明らかにすることを試みてきた.

【方法】北里研究所病院環境医学センターを受診したMCS患者16名と,健常者12名に対し,日常生活中で,身体症状・精神症状・認知機能の記録,心拍変動・体動の記録,Passive/Active Sampling法による化学物質暴露量の測定を1週間連続で行った.

【結果】データ解析の対象にした12名中,記録中に症状が出現した10名の患者全てでActive Sampling法で化学物質の関与が示唆された.

症状自覚時と非自覚時の比較では,腹痛,皮膚のかゆみ・異常を除く15の身体症状と,抑うつ気分,不安気分が症状自覚時に有意に高かった.その一方で,症状非自覚時の患者群と健常者群の比較では,身体症状,気分に有意差を認める項目は無かった.認知機能は,症状自覚時と非自覚時で有意差なく,患者群と健常者群の間でも有意差はなかった.

心拍変動は,睡眠時には健常者群と有意差はなかったが,覚醒時には有意にLF/HFが低く,交感神経系の機能不全が示唆された.

体動は,持続せずすぐに休んでしまう傾向が認められた.

【結論】症状が出現した全ての患者に化学物質の関与が示唆され,症状自覚時には多臓器に及ぶ多彩な身体症状と精神症状が認められた.

その一方で,非自覚時には健常者と全く差異は認められなかった.

以上より,MCS患者は,既知の精神疾患などと異なり,化学物質の負荷のある状況のみで,多彩な身体・精神症状を呈することが強く示唆されたが,それが古典的条件付けによって出現している可能性は除外できない.

しかし,交感神経系の機能不全や体動の非持続傾向など,古典的条件付けのみでは説明しがたい生理的所見も得られており,今後二重盲検法による検査結果と合わせて,本疾患の病態解明を深めるための検討材料となりうる.

第16回日本アレルギー学会春季臨床大会 2004年5月開催