一方、一般工業品等に含まれるナノマテリアルについても、米国の化学物質に関する規制法である有害物質規制法(TSCA)において、ナノマテリアルに特化した規定はない。
しかしながら、従来から、既存化学物質と分子の固有性が同一であるかという観点から、化学物質が新規化学物質かどうかが判断されている。
そのため、カーボンナノチューブのように既存化学物質である黒鉛等の同素体とは分子の固有性が異なるとして、新規化学物質とみなされる場合もあるが、他方で、粒子(分子)のサイズのみが異なる無機系のナノマテリアルは新規化学物質とはみなされていない。
なお、新規化学物質については、特定の試験データ提出の義務付けはなく、届出者が保有する情報等を製造前届出として米国環境保護庁(EPA)に提出することとなっている。
欧州の新たな化学物質の規制であるREACH(化学物質の登録・許可・認可及び制限に関する規則)においても、既に登録している既存の化学物質をナノ化した場合、物性等について登録情報を更新しなければならない可能性があるものの、現状、ナノマテリアルの取扱は特にその他の物質と区別されていない。
厚生労働省の所管する化学物質関連法の概要は以下のとおりである。(ただし、労働安全衛生法については、「ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会(ナノマテリアルについて)報告書」中で述べているため省略する。)
(1)薬事法
薬事法では、医薬品、医療機器、医薬部外品及び化粧品が規制されている。
医薬品、医療機器及び医薬部外品については、市販前の段階で、原則としてすべての品目について、製造販売承認申請等が求められ、有効性・安全性等についての事前審査が品目ごとに実施されている。
市販後においても、化粧品を含めた全ての品目について、適切な安全対策の実施のため副作用等報告制度等がある。
① 医薬品
(ア)医薬品とは
医薬品は、(ⅰ)日本薬局方に収められている物、(ⅱ)人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品を除く)、(ⅲ)人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品を除く。)と定義されている。
(イ)医薬品に係る規制の概要
医薬品については、市販前の段階で、原則としてすべての品目について、製造販売承認申請が求められ、有効性・安全性等についての事前審査が品目ごとに実施されている。
また、医薬品を製造販売するためには、医薬品の製造販売業者等は製造販売業許可等を取得しなければならない。
市販後においても、製造販売業者等に対して、医薬品の副作用・感染症情報や諸外国の措置情報等を国に報告することが義務付けられている。
また、医師、薬剤師等の医薬関係者や病院等の開設者に対しても、必要があると認める場合に、副作用情報等を国に報告する義務が課せられている。
さらに、市販後調査や再審査・再評価などの制度がある。