・3.職場におけるシックハウス症候群対策
シックハウス症候群は主に住居の室内空気環境要因により発生するものをいうが、化学物質を取り扱う職場では労働者に発生することも十分考えられる。「職域における屋内空気中のホルムアルデヒド濃度低減のためのガイドライン」(平成14年3月15日付け基発第0312002号)は、シックハウス症候群に関連するホルムアルデヒド等の化学物質について職域における対策として、労働
者の健康リスクの低減に資するため策定されたものである。
ガイドラインの骨子は、(1)屋内空気中のホルムアルデヒドの濃度を0.08ppm以下にするため、濃度測定をして、0.08ppmを超える場合は、換気装置の設置または増設、継続的な換気の励行、建材等の撤去または交換等の有効な措置を行う。
(2)ホルムアルデヒド等を製造し、または取り扱う作業場で、作業の性質上0.08ppm以下とすることが著しく困難な作業場では、屋内空気中のホルムアルデヒド濃度を0.25ppm以下とするため、濃度測定を行い、0.25ppmを超える場合は、代替物質へ変更、設備の密閉化、遠隔操作の導入、局所排気装置の設置、有効な呼吸用保護具の使用等の有効な措置を講じる。
(3)シックハウス症候群に関連した症状を訴える労働者に対しては、産業医等の意見に基づき、就業場所等の変更等の必要な措置を講じる。
平成20年3月1日より、労働安全衛生法施行令及び特定化学物質障害予防規則等の改正が行われ、ホルムアルデヒド等に係る労働者の健康障害防止措置が拡充された(18)。
その背景は、厚生労働省で、労働安全衛生法令上、製造工程等の管理について、未規制の化学物質であって、がん原性等労働者に重篤な健康障害を及ぼすおそれのあるものについては、労働者の当該物質への曝露関係情報等に基づきリスク評価を行った上で必要な規制を行うこととしている。
「平成18年度化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会」において、ホルムアルデヒド、1,3-ブタジエン及び硫酸ジエチルについて、労働安全衛生関係法令の整備を検討すべきとされ、これを踏まえ、労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「安衛令」という。)及び特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化則」という。)等について必要な改正を行うこととなった。
(1)ホルムアルデヒドは国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)により、ヒトに対する発がん性がある(Group 1)と判定されたことを受け、安衛令の一部改正で、現行の安衛令別表第3において第3類物質とされているホルムアルデヒドを、第2類物質に変更した。
ただし、事業者は、ホルムアルデヒドを製造し、又は取り扱う業務に労働者を従事させる場合には、当該労働者に対し特殊健康診断を行うことを要せず、労働安全衛生規則第45条に基づく特定業務従事者健康診断により一般健康診断を6か月ごとに行う。ホルムアルデヒドが原因で、まれにヒトに対して鼻咽頭がんが見られるとの指摘があるからである。
ホルムアルデヒドが第2類物質とされることに伴い、これを製造し、又は取り扱う作業場については、作業環境測定を行わなければならないこととなり、管理濃度は、0.1ppmとされた。
(2)特化則の一部改正が行われ、① 特化則第2条第3号に規定する特定第2類物質に、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒドをその重量の1%を超えて含有する物(以下「ホルムアルデヒド等」という。)を追加する。
② ホルムアルデヒドに係る作業環境測定の記録及び作業環境測定の結果の評価の記録については、30年間保存すること。
③ 特化則第38条の3に規定する特別管理物質に、ホルムアルデヒド等を追加すること。
補償の面では、新築・改修した建物で働く事務作業者、ホルムアルデヒドを扱う作業者、内視鏡の殺菌に使用する物質に曝露した看護師などでシックハウス症候群ないし化学物質過敏症にり患したとして業務起因性疾患として労災請求を行う労働者も見られている。
平成15年から、これらに対しては本省報告として、平成19年度から本省において「化学物質に関する個別症例検討会」を開催して業務起因性を判断している。