・Ⅱ シックハウス症候群と類似の症状をきたす感染症
1.全身倦怠感
全身倦怠感とは、日常的な活動においても心身が疲れ切ってだるい感じ、消耗感、活力が不足しているという感覚をさす。
原因については、生理的倦怠感(働き過ぎ、睡眠不足、妊娠など)、器質的倦怠感(感染症、貧血、薬物副作用など)、精神・心理的倦怠感(うつ病、不安、心理的ストレスなど)、混合性(上記の組み合わせ)に分類できる。
感染症はそのほとんどが全身倦怠感を引き起こすが、心内膜炎、肺結核症、伝染性単核球症、肝炎、寄生虫症、HIV感染、サイトメガロウイルス感染症などは非特異的な症状が長期間持続することがあり、シックハウス症候群との鑑別において考慮されるべきである。
2.頭痛
頭痛とは、頭頸部に限局する痛みの自覚症状をさす。頭痛は機能性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛、群発頭痛、良性労作性頭痛など)と、症候性頭痛(頭部や頭部以外の感染症、頭部外傷、血管障害、髄液圧亢進、薬物・アルコール、代
謝障害など)、神経痛(頭部神経痛、神経幹痛、求心路遮断性疼痛など)、その他に分類されている。
頭部の重症感染症は髄膜炎、脳炎・脳症、脳膿瘍であるが、シックハウス症候群と異なり発熱や髄膜刺激症状などを伴う。
しかし、クリプトコッカス、カンジダ、ムコール、アスペルギルスなどによる真菌性髄膜炎では症状が亜急性、慢性に進行し、頭痛を含む髄膜刺激症状を呈さず、行動変容から診断される例もあり、シックハウス症候群との鑑別において考慮されるべきである。
3.悪心・嘔吐
悪心とは、嘔吐しそうだという差し迫った感覚、心理体験であり、吐気と同義に用いられる。
悪心・嘔吐を引き起こす疾患はきわめて多いが、悪心・嘔吐が嘔吐中枢刺激を介して引き起こされることから、嘔吐中枢の刺激経路により中枢性刺激疾患と末梢性刺激疾患に分類されている。
中枢性刺激疾患に含まれる感染症は脳炎・脳症、脳膿瘍などであり、末梢性刺激疾患は消化管感染症(急性感染性胃腸炎、食中毒、寄生虫症など)と消化管以外の感染症(肺炎、中耳炎、腎盂腎炎など)からなる。
4.慢性咳嗽
日本咳嗽研究会によれば、長引く湿性咳嗽の原因として、副鼻腔気管支症候群、後鼻漏、慢性気管支炎、限局性気管支拡張症、気管支喘息による気管支漏、非喘息性好酸球性気管支炎、肺癌(特に肺胞上皮癌)、気管支食道瘻、気管支胆管瘻、また、長引く乾性咳嗽の原因として、アトピー咳嗽、咳喘息、アンギオテンシン変換酵素阻害薬による咳嗽、胃食道逆流、喉頭アレルギー、 間質性肺炎、心因性咳嗽、気管支結核、肺癌(特に中心型肺癌)を挙げている。
これらのなかで感染が関与し、抗菌薬が有効と考えられる疾患は、副鼻腔気管支症候群、後鼻漏、限局性気管支拡張症、気管支結核である。
Ⅲ まとめ
シックハウス症候群の診断にあたり、感染症の存在を適確に除外することが求められる。
感染症では発熱、全身倦怠感などの全身症状だけでなく、感染部位に特徴的な症状を呈することが多く、通常では局所症状から感染部位を推定することができる。
感染症の存在を確認する方法として、血清炎症マーカーのひとつであるCRPの陽性化、白血球数の増加、赤沈の亢進がよい指標となる。
また、全身症状のなかでも発熱の存在は感染症の存在を強く示唆する。次に、推定される感染部位の理学所見(痛み、熱感、発赤、腫脹など)をとり、必要に応じて画像検査(単純X線検査、超音波検査など)を行う。抗菌薬投与にあたり、原因病原微生物を同定することが大切であり、細菌学的検査、免疫血清学的検査、病理検査、遺伝子検査などを行う。
また、抗菌薬投与の有効性の評価も感染症の治療的診断として重要である。
runより:これで第2部終了です。第3部は明日掲載します。