・中国ではすでに紀元前1,150年に黄砂の観察記録がある。
韓国でも紀元174年以来、しばしば黄砂現象と見られる記述がある。日本でも古くから黄砂に関する記述が見られている。
黄砂は従来、黄河流域や砂漠から砂が運ばれてくる自然現象と理解されていたが、近年は過放牧や農地転換による土地の劣化が原因になっているのではないかと言われ、人為的原因が指摘されている。
日本にまで到達する黄砂は粒径4μm付近の粗大粒子域にピークを持つ粒子(中国・北京では4-10μm)で、土壌性粒子の特徴を示している。
黄砂粒子には石英や長石などの造岩鉱物や、雲母やカオリナイトなどの粘土鉱物が多く含まれている。
しかしこれらの成分以外にも自然起源とは考えにくい硫酸イオン、硝酸イオンやアンモニウムイオンも含まれており、黄砂の輸送途中で人為起源の大気汚染物質を取り込んでいるのではないかと考えられている。
目には見えないような細かい黄砂は太平洋を飛び越え米国の西海岸にまで到達していると言われ、その途中の太平洋にも降下している。
黄砂の観察は、粒径10μm以下の浮遊粒子状物質の測定や視程の観察に加えて、近年はライダー(※)が活用されている。このライダーは、電磁波の代わりにレーザー光を用いたレーダーで、上空を通過する黄砂を地上で計測できる遠隔測定手法である。
黄砂には土壌成分が多く含まれやや塩基性の性質を示す。そのため、酸性雨の中和作用を果たしている可能性があるし、地球温暖化問題とも関係している。
また、黄砂にはミネラル分が含まれているため、海洋に降下した黄砂は海洋表層のプランクトンへのミネラル供給を果たすことにより、海洋の生態系に大きな影響を与えていると言われている。
現在の地球環境は長い時間かけて形成されたバランスの上に成り立っている。
このことを考慮すれば、黄砂現象は単なる季節的な気象現象から、森林減少、土地の劣化、砂漠化といった人為的影響の環境問題としてとらえるとともに、その修復にあたっては、個別課題に対する対症療法的にではなく、環境全体に配慮した対応が必要となる。
黄砂は国境をまたぐ環境問題であることから、効果的な調査と対策を実施するためには関係各国の協調が必要である。
黄砂の発生をいち早くとらえ、その発達状況や移動状況を把握するために、中国大陸北西部から日本列島にいたる広い範囲で、黄砂観測網の整備が取り組まれている。
日本国内では、黄砂の飛来やその濃度を、コンピューター計算により予測・検証を行う黄砂モデルを作成し、気象庁での予測活動に活用している。
また、中国では劣化した土地の再植林などを通した裸地の減少、防風林帯の形成による風での浸食や砂の移動の緩和、さらには土地の環境容量の改善などに取り組んでいる。
※ライダー(lidar)とはレーザーを光源とするレーダー手法で Light Detection and Ranging を略したものである