・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.htm
・歯科治療用金合金と接触アレルギー
金に起因するアレルギーは, 金が溶出してイオン化したものが繰り返し皮膚または粘膜を透過することによって感作および誘発されるT細胞を介した接触性アレルギー反応である.
歯科治療用に使用する金合金の成分は ISO 規格によって規制されており, 金は通常の条件下では極めて溶解し難い金属である.
しかし, 他の金属と合金を形成していたり, アマルガムなどの他の金属が隣接していたり, 高い pH, 酸化環境, アミノ酸で特にイオウを含んだ物質によって, 金の溶解およびイオン化が促進される.
皮膚の湿疹や苔癬様反応やさまざまな口腔内の炎症が, 金によるアレルギー反応かどうかを診断するためには, パッチテストで確認する必要がある.
その判定材料には, 今までは金箔または3価の金塩化物が使用されていたが, 現在ではその代わりに1価の金チオ硫酸ナトリウム (GSTS) をワセリンに0.5~2.0%含ませたものが推奨されている.
ただし, この反応は遅延する傾向があり, 貼付後3日目の判定だけでなくむしろ貼付後7日の判定が有用である.
その他の判定法としては, 生理食塩液に 55 mM の GSTS を皮内投与する方法や, in vitro によるリンパ球幼若化試験などがある.
2001年に当院で行ったパッチテストの結果では, 15%の患者に金に対するアレルギー反応が認められた.
しかし, ニッケルアレルギーに比してはるかに低率であった.
また, 歯科医で手に湿疹が認められた患者のうち9%が金による接触性アレルギーであったが, 他の湿疹患者より高いことはなかった.
また, 耳ピアスや金の装飾品が原因でアレルギーを起こすことも知られている. 皮膚の湿疹や口腔内のさまざまな炎症の原因が金によるものであったとする症例報告が多数存在するが, 正確な診断に基づいた報告は少ない.
なお, 最近の研究では, 唾液中に遊離した金の存在が認められたこと, 金の血中濃度と歯に用いる金の量との間の関連性からみて, 遊離した金が循環系に溶け出していると考えられるとの報告がある.
さらに, 口腔内の金の総表面積とアレルギーとの間に量的相関があり, 金の口腔内の量が増えるほど金に対するアレルギーのリスクが高まることが指摘された.
金を用いて治療した近傍の局所における口内炎等の炎症が認められ, さらに, GSTS テストにおいて陽性と判定された患者では, 金を有害性の認められていない他の不活性金属に置き換えることによって口腔内発熱疾患, 湿疹, 苔癬様反応等の改善や治癒が認められていることから, これは有効な治療法である.
以上のことから, 皮膚の湿疹や口腔内の炎症が金によるアレルギー反応であるかどうかの診断には, GSTS を用いたパッチテストが最適である.